資料:7件
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文書偽造の罪について
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(本文)
以下において、Xの刑事責任について検討することにする。
県立高校の校長であるXはAを合格させるために、入学試験の答案であるAの解答用紙を書き換え、入試委員会に提出している。これだけを見ていくと、偽造罪にあたるだろうという検討はつく。現行刑法には、偽造の罪について、通貨偽造の罪、文書偽造の罪、有価証券偽造の罪、支払い用カード電磁的記録に関する罪、印章偽造の罪、の各犯罪類型がある。今回の事例はこのなかでも文書偽造罪にあたると考えられる。では、文書とはなにかであるが、「文字を用いて、人の意思、または観念を確定的かつ多少とも継続的に表示したもので、法律関係または社会生活上重要な事実関係に関する証拠となり得るもの」である。文書は、公共の信用が生じうるだけの可読性を有しなければならない。文書の概念には広義では図画も含む。
文書偽造罪の保護法益は文書に対する公共の信用を保護することであるが、その方策としては形式主義と実質主義があり、前者は文書の作成名義の真正性を保護するものであり、有形偽造行為を偽造罪として処罰する立法主義である。有形偽造とは作成名義を偽ることをいう。たとえば、作成権限のない者が勝手に他人の借用書を作成した場合(私文書偽造罪、159条1項)である。文書の成立の真正を保護する形式主義が、有形偽造の処罰につながる。有形偽造は偽造と変造からなっている。偽造は、「作成権限のない者が、他人名義の文書を作成すること」である。文書の本質的部分に変更を加えることも、もはや別の文書を作成したと同視できるので、偽造となる。偽造の方法は問わない、偽造された文書は一般人からみて、正規の作成権限者がその権限内で作成した真正の文書であると誤信させる程度の形式・外観を備えていることが必要である。
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刑法各論 文書偽造罪
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文書偽造の論点
一 Xの罪責について
論点
1.「A大学理事長X」という表示が他人名義の冒用といえるか。
↓(そこで)
当該文章の名義人を誰と解するかが問題となる。
↓(この点)<反対説>
代理人と本人を一体とする「A代理人X」という人格が名義人であり、そのような人物は存在しないから(架空人名義の文書)、一般人がそのような名前の人物が存在すると誤信しうる範囲で偽造罪が成立するとする見解がある。
↓(しかし)
架空人名義を想定するのは技巧的に過ぎる。
↓(そこで)
偽造罪の保護法益は文書に対する公共の信用であるから、名義人が誰であるかというところは一般人が何を信用するかという点から判断するべきである。
↓(この点)
代理名義の場合、効果が本人に帰属するものであるから、一般公衆も本人の文書として信用するといえる。
↓(よって)
名義人は本人であるあると解する。
二 Yの罪責について
論点
1.内容虚偽の写真コピーを写しとして使用する目的で作成する行為は偽造罪にあたるか。
→文書偽造罪にいう「文書」は原本でなければならないか。
2.改ざんした写真コピーが偽造か、または変造にあたるか。
3.コピーの作成名義人は誰か。
4.代理人名義を冒用した場合も「偽造」といえるか。(Xの罪責の論点参照)
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文書概念、名義人承諾と私文書偽造罪
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参考判例
最高裁平成6年11月29日第三小法廷決定(刑集48巻7号453頁、86事件)
最高裁昭和56年4月8日第二小法廷決定(刑集35巻3号57頁、94事件)
説例
暴走族のAは、中学生のときから度々自動車を無免許で運転していたことから運転技術にはたけていたものの、運転免許センターで実施される学科試験には数回受験したが合格できなかった。そこで、Aは、自分に似ているBが既に運転免許を取得しているのに目をつけて、平成16年9月初旬にBに対して替玉受験を依頼し、うまくパスしたら報酬として10万円を渡す約束をした。Bは、11月初旬になって依頼されたことを実行しようと思い立ち、変装して学科試験の会場に行き、マーク解答用紙の氏名欄にAの名前を書き、解答欄に正答をマークして提出した。しかし、試験中のBの挙動がおかしかったことから試験終了後に試験官がBを別室に連れて行ったところ、変装していることが発覚した。
一方、Aは、免許証が手元に届くまでの間、無免許運転で捕まるのはまずいと考えたが、10万円をアルバイトで稼ぐため、アルバイト先まで自動車で通うことにした。そこで、Aは、9月中旬ごろ、暴走族の仲間で運転免許証を持っているCに対して、「もし交通検問にあった場合には、お前の名前を貸してくれ。」と頼み込んだ。Cは、その時はじめてAが運転免許を持っていないことを知ったが、兄貴分的存在だったので、「なるべく捕まらないようにしてくださいよ。交通切符を切られるようなはめになったら、俺の生年月日や運転免許証の番号などをメモしておかないと、成りすましもできないよ。」と言って、近くのコンビニで免許証をコピーして手渡した。その後、Aは、無免許で運転を続けていたが、11月初旬ごろ、アルバイト先から帰宅する途中、交通検問にあい自動車免償の提示を求められたので、「免許証は自宅に忘れてきました。名前はCです。」と言って、Cに成りすまし、交通事件原票中の供述欄に「C」と署名し、交通切符を受け取り、数日後、郵便局で運転免許証不携帯による反則金を納入した。 A、B、Cの罪責について論ぜよ。
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