錯視実験レポート
目的
錯視とは、視覚による錯覚のことである。その内容には様々なものがあり、その中で、幾何学的錯視とは、図形の幾何学的性質、すなわち長さや面積、方向、角度、曲線などの関係が物理的関係とは異なって知覚されることをいう。その中でも、ミュラー・リヤーの錯視についてとりあげる。ミュラー・リヤーの錯視とは、同じ2本の線分の両端に、同じサイズの矢尻をそれぞれ違う向きに接続すると、外に開いた方が長く、内に閉じた方が短く見える錯覚である。
以上を踏まえ、本実験は、錯視をとりあげ、刺激条件により錯視の現れ方がどのようにかわるのかの実験を実施し、その結果を考察することを目的とする。
方法
実験協力者
2008年4月23日、心理学実験室において実験を実施した。実験協力者6名(男性2名、女性4名)に対して実験を行った。手続きは以下の通りである。
手続き
ミュラー・リヤー錯視図セットを用い、実験協力者法で実験を実施した。錯視図セットには、図形が6種類あり、それぞれをA、B、C、D、E、Fとした(表1)。またそれぞれの比較刺激を、Aは30㎜・15度、Bは30㎜・30度、Cは30㎜・60度、Dは15㎜・30度、Eは35㎜・30度、Fは45㎜・30度とした。
まず、実験者は、実験協力者に対し、刺激図の特定の場所ではなく、図形全体を見て判断することと、あまり考えこまないで判断することを教示した。次に、水平線分の両端の斜線のついた標準刺激と片端に斜線のついた比較刺激を横に並べて呈示した。一つの錯視図につき、計8回の測定を行った。8回中、比較刺激が標準刺激の主線に比べ、明らかに短いところから出発し、しだいに長くしていく上昇系列を4回、反対に比較刺激が明らかに長いところから始めてだんだん短くしていく下降系列を4回実施した。上昇系列において、実験者は、任意の図形をとり、比較刺激が明らかに短くみえるようにして実験協力者に与えた。実験協力者は、図の面を視線に垂直になるように片方の手でささえ、もう片方の手で比較刺激を静かにみえるところまで調節した。決め終わったら、実験協力者は錯視図を実験者に渡し、実験者は、その時の比較刺激の長さを記録した。下降系列は、上昇系列の反対の手続きとした。記録する際に、測定結果が実験協力者に伝わらないよう気をつけた。実験者は上昇、下降の各系列を行う際、比較刺激の出発点は試行ごとに変化させた。また、標準刺激を実呈示する試行を交互に行った。実験所要時間は、90分であった。
表1 比較刺激の構成
15㎜
30㎜
35㎜
45㎜
15度
A
30度
D
B
E
F
60度
C
結果
ったが、試行を重ねるにつれて緊張もほぐれリラックスした状態であった。
各図形の錯視量の平均値および標準偏差
斜線の長さ・角度が錯視にどのように影響しているのか検討するため、各図形の平均値と標準偏差を算出した(表2)。
その結果Aの平均が33.6、標準偏差が6.5であった。Bの平均が30.3、標準偏差が5.8であった。Cの平均が21.4、標準偏差が4.8であった。Dの平均が21.2、標準偏差が5.2であった。Eの平均が32、標準偏差が6.4であった。Fの平均31.6、標準偏差が6.2であった。したがって、角度の小さいほうが錯視量が大きいことが明らかになった。また、長さの長いほうが錯視量が大きいことが明らかになった。
表2 各図形の錯視量の平均値および標準偏差 (単位は㎜)
A
30 ㎜15度
B
30㎜30度
C
30㎜60度
D
15㎜30度
E
35㎜30