奈良平安時代と院政鎌倉時代以降の文献から見出される国語史的特色(その時代らしさ)について
平安時代の文献『源氏物語』「桐壺」より、【年月に添へて御息所の御ことをおぼし忘る
ゝ折なし。慰むやとさるべき人〃をまゐらせたまへど、なずらひにおぼさるゝだにいとかたき世かなとうとましうのみよろづにおぼし成ぬるに、先帝の四の宮の、御かたちすぐれたまへる聞こえ高くをはします、(中略)三代の宮仕へに伝はりぬるに、え見たてまつりつけぬを、后の宮の姫宮こそいとようおぼえてをひ出でさせ給へりけれ。ありがたき御かたち人になん」】
平安時代を代表するこの作品は、当時の口語を反映する会話文で成り立っている。「ひらがな」を用いた和文体が特徴的で、音韻に関しては、音便の発生が大きな特色である。
まず、ウ音便については「ク」・「ヰ」・「グ」・「ガ」が「ウ」に転じるか、「ウ」の音節が挿入されたと考えられる点については、引用文から「疎ましう」と「いとよう」の「う」の部分、また「親しう」の「う」の部分が適合していると思われる。いずれも、「疎ましく」・「いとよく」・「親しく」の「く」が「う」に転用したものと考えられる。
語彙に関しては、奈良時代には既に借用語として導入されていたとされる、平安時代における漢語の使用...