『源氏物語』の藤壺について:
物語の役割についての調査と物語第一部の主題についての考察。
『源氏物語』は、王権物語とされながらも政治と愛の物語と言われている。物語第一部は、光源氏が数多の恋愛遍歴を繰り広げながら、王朝人としての最高栄誉を極める前半生の部分である。光源氏が一番愛した人物が、亡き実母のあとに桐壺帝の妻となる源氏の義母の藤壺であった。
藤壺の存在は、物語上において三つの役割を果たしていると言える。一つは、桐壺帝に対する愛情や、源氏に対する感情に現れるような人間の情愛についてである。貴族社会における自由恋愛は認められておらず、当時の婚姻には貴族発展における政治的策略が込められていた点に注目したい。
物語上では、光源氏と桐壺帝は親子関係であり、令泉帝は桐壺帝の子とされながらも、実際は源氏と藤壺の子であった。源氏と藤壺は義理の母子関係でありながら、年齢の近い他人同士でもある。帝の子でないと知りながら、純粋に母性愛を捧げる藤壺の姿は、母性としての強い愛情を表現しており、藤壺が、源氏を拒みながらも必死に子育てする中で芽生える源氏への愛おしさを覗わせる心の変化は、当時の一夫多妻制を皮肉に反映する役割を果たしたとも考えられる。自由恋愛が禁止されたこの時代では、婚姻は次に提示...