国語学概論 分冊2
日本大学 国文学
p.142 敬語行動から見る地域社会の類型
日本語の敬語には地域差が存在し、その一つとして身内の人間に敬語を使用する身内尊敬用法がある方言と、もたない方言があることが挙げられる。
身内尊敬用法を運用するのは近畿・西日本中心で、近畿地方中央部では、家族や身内も、それ以外の人も同じように待遇する。特に身内を尊敬しているというわけではなく、「自分」対「身内・他人」という人間関係のとらえ方の存在が大きく、自分と自分以外の人間とを明確に区別する社会だということができる。
一方で、家族や身内に尊敬用法を用いず、それ以外の他者に用いる、他者尊敬用法を運用する地域は、身内と他人とを明確に区別するという人間関係を基とした地域社会の在り方を示している。「自分・身内」対「他人」という人間関係のとらえ方は、連座の考え方を背景としており、身内はどこまでも自分と同じ単位、罪も責任も共同とする、内と外の区別を基調とした社会ということができる。
敬語は言語によって社会のありようを表現した、典型的な言語事象であり、今後、社会言語学による分析がより重要度を増してくる...