本件で主に争点となったのは以下の3つである。まず、目的の範囲(43条)とは何の範囲を定めたものなのか、言い換えると、何を制限したものなのかということである。次に、「目的の範囲」という文言の中の「目的」の意味についてである。さらに、政治献金は会社の目的の範囲内であるかということである。
法人の目的の範囲(八幡製鉄政治献金事件)
1.事実の概要と判旨
まず、本件の事実の概要は以下の通りである。八幡製鉄株式会社の代表
取締役 Y1・Y2 が、同会社を代表して自由民主党に政治資金350万円を
寄付した。同会社の株主 Xは、右行為が「鉄鋼の製造及び販売並びにこれ
に附帯する事業」という定款所定の目的外であり、自然人たる日本国民に
のみ認められた参政権を侵害し、株主の政治的信条を無視することから株
主の参政権をも侵害するなど種々の点から民法90条違反の行為であり、
取締役 Y1・Y2 は同会社に対する忠実義務に反し会社に上寄付額と同額の
損害を与えたので、同会社へこれを賠償する義務を負担しているとし、
Y1・Y2 に株主代表訴訟を提起し、Y1・Y2 が同会社に連帯して350万円
及びそれに対する遅延利息を支払うように求めた。
最高裁は、上告を棄却した。判決の要旨は以下の通りである。「会社は、
自然人と等しく、社会の構成単位たる社会的自在であるから、それとして
の社会的作用を負担せざるを得ない。一見定款所定の目的と関係がない行
為でも、会社に、社会通念上、期待ないし要請され...