1 問題の所在
90年代中盤以降,日本社会ではインターネットが普及し始めた。現在(2003年)では約
7千7百万人の人々がインターネットを利用している。これは日本の人口の約6割にあ
たる数である(図1)。また,その普及の勢いは90年代末のような急激なものではなくな
りつつある。企業・事業所・世帯への普及率の伸び自体は,2002年以降緩やかになって
情報社会論とインターネット
社会論の連続性
──未来社会論的視座を超えるための一考察──
19
慶應義塾大学
メディア・コミュニケーション研究所紀要
山口 仁
1.また年齢別の普及に関しても,10代(中学生以上),20代,30代
での利用率は9割を超えている(『情報通信白書』平成16年度,
p36)。なお,本稿で引用する『情報通信白書』の図は,総務省
情報通信統計データベースHP(http://www.johotsusintokei.
soumu.go.jp/whitepaper/ja/cover/index.htm)の各項目から
ダウンロードしたものである。
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igure
able
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igure
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図1 インターネット利用人口と人口普及率の推移
『情報通信白書』平成16年度 p26
10,000
インターネット利用人口
人口普及率
(万人)
8,000
6,000
4,000
2,000
0
70
(%)
50
60
40
30
20
10
0
※1 上記のインターネット利用人口は,パソコン,携帯電話・PHS・携帯情報端末,ゲーム機・
TV機器等のうち,1つ以上の機器から利用している6歳以上の者が対象
※2 平成15年末の我が国の人口普及率(60.6%)は,本調査で推計したインターネット利用人口
7,730万人を,平成15年末の全人口推計値1億2,752万人(国立社会保障・人口問題研究所『我
が国の将来人口推計(中位推計)』)で除したもの(全人口に対するインターネット利用人口の
比率)
※3 平成9~12年末までの数値は「情報通信白書(平成12年までは通信白書)」より抜粋。平成
13年末,14年末の数値は,通信利用動向調査の推計値
※4 推計においては,高齢者及び小中学生の利用増を踏まえ,対象年齢を年々拡げており,平
成12年末以前の推計結果については厳密に比較できない(平成11年末までは15~69歳,平
成12年末は15~79歳,平成13年末から6歳以上)
1,155
平成9
13.4%
1,694
10
2,706
11
4,708
12
44.0%
5,593
13
54.5%
6,942
14
60.6%
7,730
15(年末)
37.1%
9.2%
21.4%
いる(図2)
(1)
。これらのデータから,インターネットは着実に社会に普及してきたとい
えるだろう。
本稿の目的はインターネットと社会の関係を論じた研究,すなわちインターネット社
会論の問題点を指摘することである。インターネット社会論に関する研究は数多く蓄積
されている。だがその多くは規範的観点から,インターネット社会やインターネット利
用(者)の未来を語る議論が多い。
このようなインターネット社会論はかつての情報社会論を批判し,自らを新しい研究
であるかのように位置付けている。しかし,新しいメディアに未来社会の構築の可能性
を期待する,という点ではかつての情報社会論とそれほどかわらないのではないか。イ
ンターネット社会論を評価する・
1 問題の所在
90年代中盤以降,日本社会ではインターネットが普及し始めた。現在(2003年)では約
7千7百万人の人々がインターネットを利用している。これは日本の人口の約6割にあ
たる数である(図1)。また,その普及の勢いは90年代末のような急激なものではなくな
りつつある。企業・事業所・世帯への普及率の伸び自体は,2002年以降緩やかになって
情報社会論とインターネット
社会論の連続性
──未来社会論的視座を超えるための一考察──
19
慶應義塾大学
メディア・コミュニケーション研究所紀要
山口 仁
1.また年齢別の普及に関しても,10代(中学生以上),20代,30代
での利用率は9割を超えている(『情報通信白書』平成16年度,
p36)。なお,本稿で引用する『情報通信白書』の図は,総務省
情報通信統計データベースHP(http://www.johotsusintokei.
soumu.go.jp/whitepaper/ja/cover/index.htm)の各項目から
ダウンロードしたものである。
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図1 インターネット利用人口と人口普及率の推移
『情報通信白書』平成16年度 p26
10,000
インターネット利用人口
人口普及率
(万人)
8,000
6,000
4,000
2,000
0
70
(%)
50
60
40
30
20
10
0
※1 上記のインターネット利用人口は,パソコン,携帯電話・PHS・携帯情報端末,ゲーム機・
TV機器等のうち,1つ以上の機器から利用している6歳以上の者が対象
※2 平成15年末の我が国の人口普及率(60.6%)は,本調査で推計したインターネット利用人口
7,730万人を,平成15年末の全人口推計値1億2,752万人(国立社会保障・人口問題研究所『我
が国の将来人口推計(中位推計)』)で除したもの(全人口に対するインターネット利用人口の
比率)
※3 平成9~12年末までの数値は「情報通信白書(平成12年までは通信白書)」より抜粋。平成
13年末,14年末の数値は,通信利用動向調査の推計値
※4 推計においては,高齢者及び小中学生の利用増を踏まえ,対象年齢を年々拡げており,平
成12年末以前の推計結果については厳密に比較できない(平成11年末までは15~69歳,平
成12年末は15~79歳,平成13年末から6歳以上)
1,155
平成9
13.4%
1,694
10
2,706
11
4,708
12
44.0%
5,593
13
54.5%
6,942
14
60.6%
7,730
15(年末)
37.1%
9.2%
21.4%
いる(図2)
(1)
。これらのデータから,インターネットは着実に社会に普及してきたとい
えるだろう。
本稿の目的はインターネットと社会の関係を論じた研究,すなわちインターネット社
会論の問題点を指摘することである。インターネット社会論に関する研究は数多く蓄積
されている。だがその多くは規範的観点から,インターネット社会やインターネット利
用(者)の未来を語る議論が多い。
このようなインターネット社会論はかつての情報社会論を批判し,自らを新しい研究
であるかのように位置付けている。しかし,新しいメディアに未来社会の構築の可能性
を期待する,という点ではかつての情報社会論とそれほどかわらないのではないか。イ
ンターネット社会論を評価する・批判するのどちらにしても,かつての情報社会論との
関連を考慮に入れる必要があるだろう。そこからインターネット社会論と情報社会論の
連続性,もしくは断絶性について考察を加えていく必要があるのではないだろうか。本
稿ではこのような観点から,情報社会論からインターネット社会論への理論的系譜を概
観する(2)。そして今まで行われたインターネット社会論への批判の有効性を検証しつつ
(3),情報社会論とインターネット社会論に共通する問題点を指摘していく(4)。
2 情報社会論とインターネット社会論の展開
2.1 情報社会論の展開
本稿では,インターネット社会論を情報社会論の一種として考察していく。ただ,「情
報化」や「情報(化)社会論」といった概念は,研究者の間で異なった使われ方をしてい
るという指摘も古くからあるので(林1969参照),本稿では議論を進めるにあたり以下の
ような定義を採用したい。
情報化の進展が大規模な社会変動を引き起こし,産業社会とは異なる情報社会を生み
出しつつあることを主張する(大石1998:p157)
20
メディア・コミュニケーション No.55 2005
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図2 企業・事業所・世帯へのインターネットの普及率
『情報通信白書』平成16年度 p26
100
企業(300人以上)
事業所(5人以上) 世帯普及率
(%)
80
90
70
50
30
10
60
40
20
0
※1 世帯普及率は,「自宅・その他」において,個人的な使用目的のためにパソコン,携帯電話等により
インターネットを利用している構成員がいる世帯の割合
※2 企業普及率は,「全社的」若しくは「一部の事業所又は部内」においてインターネットを利用してい
る企業の割合
11.0
19.2
80.0
19.1
88.6
34.0
44.8
95.8
60.5
79.1
81.4
98.4 98.2
88.1
82.6
68.0
97.6
12 11 平成10 13 14 15 (年末)
図表 , (出典)総務省「通信利用動向調査」
31.8
確かにこの定義は「情報社会」の内容を具体的に表すものではない。しかしこの定義
で注目すべきことは,情報社会論を「産業社会とは異なる」社会に関する議論であると
とらえている点である。このような形式的な定義をとることで,研究者が想定する「情
報(化)社会」の具体的内容に関して違いがあろうとも,それに関係なく情報社会論を広
く考察することができるだろう。つまり情報社会論とは,現在の社会(産業社会)から新
しい社会(情報社会)への変動を,情報化を進展させるもの(例えば新しいメディアなど)
との関連でとらえる研究全般を含むと考えられる。
新しいメディアと社会変動について論じているという点では,インターネット社会論
も情報社会論に含めることができる。ただし,インターネット社会論は従来の情報社会
論とは異なるものであるという考え方も根強い(吉田2000,伊藤・花田1999参照)。そこ
で本稿では,インターネット社会論を含めた情報社会論を,未来社会論,情報政策・産
業論,ネットワーク社会論という三つに分けて考察する
(2)
。インターネット社会論はこの
中ではネットワーク社会論に含まれる。
未来社会論に関しては,A.トフラー『第三の波』,日本でいえば香山健一『未来学入門』
などが代表的な著作である。これらの研究は農業社会から産業(工業)社会へ,そし
て新しい社会(情報社会)へ,という時代の変動を論じている。そして現状を産業(工
業)社会から新しい時代への変動期と位置付けている。たとえば香山健一は「科学技術
の驚異的な発展の結果,先進諸国において,産業文明が未知の,まったく新しい段階に
突入しつつある(香山1967:p12)」と述べている。
未来社会論に対する後年の評価としては,「技術革新と社会変容をかなりストレートに
結びつけた明るいトーン(小林・加藤1994:p175)」や「日本社会の未来を概して楽観的
に描いていた(大石1998:p162)」などがある。確かに,未来社会論者である梅棹忠夫の
「それ(産業社会から情報化社会への変化)は,人類進化の本質的なあゆみということはで
きないだろうか。わたしは,この予見のもとに,人類の偉大なる未来を信ずるものであ
る(梅棹1968:p57-8カッコ内引用者)」というの記述からは,楽観的な未来像が明確に
伝わってくる。
もっとも香山の場合,単なる未来予測に止まらない議論も展開している。香山は自ら
の未来学を「操作可能な未来という観点から,未来の社会と人間を総合的に分析し,構
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
想し,設計することを課題
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
とする新しい方法(香山1967:p28,傍点引用者)」と定義し
ている。つまり香山は単に未来社会の実現を期待しているだけではなく,そのような社
会の構築を目指す議論を展開しているのである。このように未来社会論を当時の社会の
問題を克服するための研究として位置付けることもできるだろう。ただし,新しい社会
が構築されれば社会の問題が解決されると考えている点では,未来社会論は未来社会そ
21
情報社会論とインターネット
社会論の連続性
2.情報化社会論を未来社会論,ニューメディア論,マルチ
メディア論(大石1998参照),同様に「第一段階(ダニエル・
ベルや梅棹忠夫:技術決定論的かつ経済中心主...