自然保護論

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    【東京大学】【優】米国の国立公園と比較して、日本の国立公園の法制度上の違いについて、重要と思われる特徴を2点挙げなさい。日本の国立公園において、自然保護を強化するために必要と考える方策を3点以上挙げなさい。

    資料の原本内容

    自然保護論レポート課題 テーマ「国立公園」
    (1)米国の国立公園と比較して、日本の国立公園の法制度上の違いについて、重要と思われる特徴を2点挙げなさい。
    日米の国立公園に関する法制度で大きく異なる点に、アメリカの国立公園はすべて連邦政府の所有する国有財産であるという点があげられる。日本の国立公園・国定公園は法律に基づいた地域指定であり、この中には国有林や公有地、民有地などが多くの面積を占めている。つまり土地利用の規制をかけているだけにすぎないのである。アメリカでは連邦政府直轄地であるから、国立公園内では州政府の権限も及ばない。国立公園局が自然、動植物、文化財等の保護と利用のほか、警察・消防などの公共サービス、園内施設の経営管理などさまざまな責任を担っている。またほとんどの国立公園が有料であるという点も日本とは異なっており、ゲートでレンジャーに入園料を支払うしくみになっている。これらの収入は国立公園の維持管理に充てられる。さらに、両国の国立公園にかける国家予算は日本が36億円、アメリカが1900億円と大きく異なり、公園管理を担当する公務員の数も日本が110人、アメリカが9,500人などを比べてみても、アメリカの国立公園へ対する取り組みは日本と比べて大いに進んでいる。(454字)
    また日米の国立公園に関する法制度の違いとして、アメリカでは環境に大きな影響を与える行為に対して環境影響評価を義務付けている点があげられる。アメリカでは国内環境政策法(NEPA)は1970年に制定され、連邦政府の環境政策全般に影響を与えている。法によれば連邦職 員は環境に大きな影響を与える行政行為に関して、詳細な環境影響評価を義務づけられている。森林管理局は、他のどの機関よりこの影響評価書を作成しなければならず、特に法が求める事前評価によって、森林伐採の影響を浮き彫りにし、広く市民が知る結果をもたらすのである。自然保護活動が実際に環境にどの程度、作用しているのかを数値化することは市民の環境に対する意識の向上につながる。(309字)
    (2)日本の国立公園において、自然保護を強化するために必要と考える方策を3点以上挙げなさい。
      国立公園の利用や管理のあり方をめぐっては種々の問題や対立が生じている。そして、多くの場合、それらの問題の原因は、関係者の間に、国立公園という制度自体の趣旨目的についての理解や見解にかなりの相違があることや、それぞれの公園の設立意義である公園の環境の価値についての社会的合意が十分でないということにある。国立公園制度の趣旨目的を再確認するとともに、それぞれの国立公園の特徴や価値を確認することが必要である。現在では、国立公園によって保護される自然の価値は、単に観光の目的となる景観的なものだけではなく、動植物の種の多様性や生態系の保全、それらを通じた自然科学研究の場の提供、水源の保護、あるいは森林による地球規模の気候変動の緩和など、多様な機能の重要性が理解されるようになってきた。これからの国立公園は、このような役割の維持増強を十分に果たすものでなくてはならない。

    また日本の国立公園をみると、過剰利用に伴う踏圧や山岳トイレ問題をはじめ、過剰な利用者の受け入れやそれに伴う施設整備によって、自然環境の質が著しく変化し、末永く深い自然体験が保証されるとは言い難い現状がある。他では得られない深い自然体験が可能な場である国立公園の自然は、不特定多数の無制限な利用や企業的発想にもとづく自由競争による利用圧力には脆弱な存在であり、自然環境と利用者の自然体験の質を維持しようとすれば、そこには自ずと利用の手法と総量について、一定の枠組みが必要となる。現在の自然公園法は、開発規制のための制限は設けているが、オーバーユースを防ぐための機能は乏しい。国立公園の利用に関して、一定のルールを定め、それを守るものには最大限の自由とすばらしい自然体験を保証するしくみを確立すべきである。国立公園は生態系を保全するとともに、人々に良好な自然体験を提供する社会的サービス活動であるといえる。人々が国立公園に求めるものは、日常の生活では味わえないような自然体験であり、そのような自然体験をするためには、公園内の自然環境が良好に保全され、適切な利用がなされていることが前提となる。国立公園の環境の保全を確保し、適切な利用を促進するためにも、公園管理者は利用者に対して受け身に対応するのではなく、より積極的に潜在的な利用者を含む社会に対して良好な自然体験を提供するための呼びかけを行う必要がある。これは自然体験の提供というサービスについての、戦略的なマーケティングともいうことができる。

    そして、特に重要な点は日本の国立公園の特徴は、土地所有に関わりなく国立公園の網をかける「地域制公園」であり、そのため公園管理にあたって公園管理者である環境庁は常に関係機関の調整を必要とする点である。これを関係行政機関が責任を分担・協力しあって公園を維持管理する優れた制度とする見方もあるが、公園管理の現場では、この制度が日本の国立公園の管理を複雑で困難にしている。さまざまな権限や得意分野を持つ行政機関が真に助け合うことができれば大きな力を発揮できるが、実際には強固な縦割り行政のために国立公園としての意志の統一は乏しく、しばしば国立公園の方針と整合性のとれない事業が実施される。本来、協調しあって国立公園管理を担うべき関係行政機関の方針や活動が不統一である原因の多くは、関係機関だけで行われる密室的な協議が物事を決めている現状に問題がある。議論を公開にすることによって論議が複雑化し、合意を得るのに時間がかかることが予想されるが、公開の場で徹底的に議論された合意された結論は、関係機関は遵守せざるを得なくなるし、利害が対立する問題であればあるほど、広く公開して合意を図ることが、最終的には問題解決の早道であり、良い結果を生むことになる。国立公園において適切な管理を行うには、国立公園の現場における公園計画づくり、許認可案件の審査、利用指導などの業務を適切にこなす能力のある職員を必要な数だけ配置することが必要である。一方で、地方分権法によって国立公園管理業務が国の直轄となり、自然保護官がデスクワークに縛り付けられる事態も発生しており、林野庁からの部門間配置転換による人員増にもかかわらず、公園の自然や利用者に接したところで働くレンジャーの姿を見ることができない状況は改善されていない。専門職としての自然保護官養成を可能にする知識・技術体系の構築が急がれるが、一方では行政側の対応の遅れや公務員定員増が厳しい状況に対応するため、民間団体において野生生物の調査研究、環境教育等に従事し経験を積んだ人材を国立公園の専門職として登用する制度の検討が望まれる。とくに行政サービスとしての公園事業については、公務員組織によって実施するよりはむしろ公園ごとに新たな管理組織を設置し、人材の登用を流動化する方法を検討することも必要であろう。

    最後に国立公園を設置し管理するには費用がかかることは誰も否定し得ない。その費用には、管理に要する人件費や施設費などの直接的な費用もあれば、開発を制限することによる機会費用の減少という費用もある。一方で、このような費用をかけて維持される自然地域があることによって、流域の水源涵養などの環境サービス、他では味わえない自然体験などの社会的サービス、観光産業などの経済的利益も生み出されている。これに対して、誰がどのようにして適切な費用を負担すべきかという議論はほとんど行われていない。今後、国立公園における生物多様性の保全や自然体験の場としての機能を充実させるためにも、適切な費用負担のルールに関する国民の合意形成を図る必要がある。(2305字)
    参考文献

    「アメリカの国有地法と環境保全」 鈴木光 著

    「自然公園シリーズ 3 国立公園の法と制度」加藤峰夫 著

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