日本近海における洋上風力発電の実現可能性に関する研究

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    日本近海における洋上風力発電の実現可能性に関する研究
    環境システムコース・地球環境工学分野 26638 緒方龍
    1. 緒言
    風力発電は、地球環境に優しいエネルギ
    ー源として欧米を中心にこの 10 年間で飛
    躍的に進展してきた。特に、ドイツやデン
    マーク、オランダといった風力先進国では、
    近い将来国内の総電力需要の 10% 程度を風
    力発電で賄うという計画もある。
    日本は世界的に見ると風力発電の導入に
    おいて後進国であるものの、その導入量は
    ここ数年で急激に増加している。しかし国
    土面積の狭い日本では陸上における風力発
    電は頭打ちとなる可能性があり、2010 年ま
    での日本の目標である 3000MW の風力発
    電の導入のためにはフロンティアを開拓す
    る必要がある。
    陸上での風力発電の飽和は欧米でも生じ
    ており、西欧諸国を中心に洋上風力発電の
    開発、建設が盛んに行われている。
    洋上風力発電のメリットは、
    ・ 陸上に比べ風況が良い
    ・ 運搬・敷設時の障害物が少ない
    ・ 騒音・景観問題などをクリアしやすい
    などがある。対してデメリットには
    ・ 発電コストが陸上に比べ割高となる
    ・ 漁業補償、航路妨害
    などがあげられる。
    日本は世界第 6 位の経済水域面積を有す
    る海洋大国であり、近海だけでも膨大な風
    1)。今後、風力資源を大規模に利用す
    るためには、欧州と同様に洋上への展開を
    検討する必要がある。
    日本近海において大規模な洋上風力発電
    ファームを建設する場合、陸地からの距離
    を大きく取ることで漁業補償などの社会条
    件をクリアでき、そのような海域において
    は風況も優れている。しかし、同時に水深
    が深いことが多く、着底式のみでなく浮体
    式も視野に入れた検討が必要となる。
    2. 目的および概要
    既存の研究により、着底式および浮体式
    の洋上風力発電システムの実現可能性につ
    いては検討がなされており2)、現実的な発
    電コストでの開発が可能であるとの結論が
    出ている。また、浮体式の発電コストの中
    で大きなウェイトを占めるのが浮体・係留
    装置であることが分かっている。
    3),4)
    搭載するモデル(FST)および複数の風車を
    搭載するモデル(FMT)がある。FMT では風
    車が近接するために風車間の干渉によって
    発電量変化が予想されるが、既存の研究で
    はその効果を評価した例はない。
    そこで本研究では浮体式洋上風力発電を
    中心に想定し、発電コストの支配的要素で
    ある浮体・係留装置のコストを詳細に検討
    すること、および風車間影響を定量化する
    ことを第 1 の目的とした。その上で様々な
    検討項目を発電コストベースで定量的に検
    証することで浮体式の課題を明らかにし、
    その解決案として新システムの提案を行う
    ことを第 2 の目的とした。
    近接する風車の影響による発電量変化は
    実験により定量化した。また、FMT におい
    て浮体全体でヨー制御
    a)を行うモデル
    aヨー制御:水平軸風車では、風車の向きと風向が
    一致していないと発電効率が悪くなるため、常に
    風向を向くように制御されている。このような制
    御をヨー(yaw)制御という。特に本研究では、風車
    本体のヨー制御のみでなく、浮体上に近接して設
    置される風車間の影響を少なくするために、浮体
    全体でもヨー制御を行うシステムを考えており、
    その概要は Fig.aのようになる。
    Fig.a 浮体ヨー制御概要図
    (FMT-YC)を想定し、浮体ヨー制御の効率を
    定量的に検討した。Fig. 1~Fig.

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    資料の原本内容

    日本近海における洋上風力発電の実現可能性に関する研究
    環境システムコース・地球環境工学分野

    26638

    緒方龍

    1. 緒言

    2. 目的および概要

    風力発電は、地球環境に優しいエネルギ
    ー源として欧米を中心にこの 10 年間で飛
    躍的に進展してきた。特に、ドイツやデン
    マーク、オランダといった風力先進国では、
    近い将来国内の総電力需要の 10%程度を風
    力発電で賄うという計画もある。
    日本は世界的に見ると風力発電の導入に
    おいて後進国であるものの、その導入量は
    ここ数年で急激に増加している。しかし国
    土面積の狭い日本では陸上における風力発
    電は頭打ちとなる可能性があり、2010 年ま
    での日本の目標である 3000MW の風力発
    電の導入のためにはフロンティアを開拓す
    る必要がある。
    陸上での風力発電の飽和は欧米でも生じ
    ており、西欧諸国を中心に洋上風力発電の
    開発、建設が盛んに行われている。
    洋上風力発電のメリットは、
    ・ 陸上に比べ風況が良い
    ・ 運搬・敷設時の障害物が少ない
    ・ 騒音・景観問題などをクリアしやすい
    などがある。対してデメリットには
    ・ 発電コストが陸上に比べ割高となる
    ・ 漁業補償、航路妨害
    などがあげられる。
    日本は世界第 6 位の経済水域面積を有す
    る海洋大国であり、近海だけでも膨大な風
    力エネルギーが賦存することが報告されて
    いる1)。今後、風力資源を大規模に利用す
    るためには、欧州と同様に洋上への展開を
    検討する必要がある。
    日本近海において大規模な洋上風力発電
    ファームを建設する場合、陸地からの距離
    を大きく取ることで漁業補償などの社会条
    件をクリアでき、そのような海域において
    は風況も優れている。しかし、同時に水深
    が深いことが多く、着底式のみでなく浮体
    式も視野に入れた検討が必要となる。

    既存の研究により、着底式および浮体式
    の洋上風力発電システムの実現可能性につ
    いては検討がなされており2)、現実的な発
    電コストでの開発が可能であるとの結論が
    出ている。また、浮体式の発電コストの中
    で大きなウェイトを占めるのが浮体・係留
    装置であることが分かっている。3),4)
    また、浮体式には浮体上に1基の風車を
    搭載するモデル(FST)および複数の風車を
    搭載するモデル(FMT)がある。FMT では風
    車が近接するために風車間の干渉によって
    発電量変化が予想されるが、既存の研究で
    はその効果を評価した例はない。
    そこで本研究では浮体式洋上風力発電を
    中心に想定し、発電コストの支配的要素で
    ある浮体・係留装置のコストを詳細に検討
    すること、および風車間影響を定量化する
    ことを第 1 の目的とした。その上で様々な
    検討項目を発電コストベースで定量的に検
    証することで浮体式の課題を明らかにし、
    その解決案として新システムの提案を行う
    ことを第 2 の目的とした。
    近接する風車の影響による発電量変化は
    実験により定量化した。また、FMT におい
    て浮体全体でヨー制御a)を行うモデル
    aヨー制御:水平軸風車では、風車の向きと風向が

    一致していないと発電効率が悪くなるため、常に
    風向を向くように制御されている。このような制
    御をヨー(yaw)制御という。特に本研究では、風車
    本体のヨー制御のみでなく、浮体上に近接して設
    置される風車間の影響を少なくするために、浮体
    全体でもヨー制御を行うシステムを考えており、
    その概要は Fig.a のようになる。

    Fig.a 浮体ヨー制御概要図

    (FMT-YC)を想定し、浮体ヨー制御の効率を
    定量的に検討した。Fig. 1~Fig. 3 に想定モ
    デルを示す。
    次に様々な検討項目を変数として感度解
    析を行い浮体式の発電コストに対し支配的
    な要素を抽出し新システムの提案を行った。
    Fig. 5 実験概要側面図

    Fig. 1 FST モデル

    Fig. 3 FMT-YC モデル

    3. 風車間影響の評価
    発電コスト削減には浮体サイズを小さく
    する必要があるため、浮体上の風車はある
    程度近接して配置する必要性が生じる。近
    接する風車の配置、風向によっては風上側
    の風車によって風下側の風車の発電量が減
    少する遮蔽効果が生じる。本研究では遮蔽
    効果を実験により定量的に評価した。
    3.1. 実験方法
    遮蔽効果の推定には、水中で穴あきの円
    板を設置し曳航することによって発生する
    抗力から推算した。
    実験方法は、風車模型(Fig. 4)をアームに
    取り付け、アームを曳航電車に固定し、Fig.
    5、Fig. 6 に示すような状態で曳航電車を走
    行させ、風車模型にかかる抗力を測定した。
    実験パラメータを Table 1 に示す。なお、
    風車直径 D は 10cm であり、
    風向 θ は Fig. 6
    に示すように風と浮体の相対角度を表す。
    Table 1 実験パラメータ
    模型数
    曳航速度

    1〜7基
    50〜
    400mm/sec

    Fig. 4 風車模型

    風車間隔

    1.0〜10D

    風向

    0~90deg

    3.2. 実験結果
    実験から、遮蔽効果について以下のこと
    が分かった。
    ・ 風上側の風車は風下側の風車の影響
    を受けない
    ・ 風車間隔が小さい場合、遮蔽効果は風
    速による影響は小さい
    ・ 遮蔽効果は風車間隔・風向によって決
    定される
    ・ 3 基目以降の風車の遮蔽効果による
    抗力の低下は同程度である
    また実験結果から遮蔽効果のモデル化を
    行った。モデル式は風車間隔 d ・風向 θ を
    変数とし、以下のように定式化した。Fig. 7
    は実験結果とモデル式を表したグラフであ
    る。点が実験値、実線がモデル式を表す。
    なお、式中の D は風車直径である。
    C D = 1 − 0.7 ×

    2φ − sin 2φ

    π


    ⎛d
    ⎞⎞
    ⎜⎜ φ = arccos⎜ cos θ ⎟ ⎟⎟
    D

    ⎠⎠


    1.2
    1
    0.8
    CD

    Fig. 2 FMT モデル

    Fig. 6 実験概要平面図

    0.6
    0.4
    0.2
    0
    0

    20

    40
    60
    風向(deg)

    80

    100

    10cm
    15cm
    20cm
    25cm
    30cm
    10
    15
    20
    25
    30

    Fig. 7 遮蔽効果

    3.3. 遮蔽効果による発電量変化
    遮蔽効果によって生じる発電量の変化を
    平均風速ごとに算出した。Fig. 8 はその推
    定結果から風向ごとの設備利用率を表した
    グラフである。なお風車間隔は 1.5D である。
    平均風速が小さいほど遮蔽効果による発電
    量減少が大きくなることが分かった。
    なお、発電量の算出にはレーレ分布で近
    似した風速分布と風車の出力特性曲線を用
    いた。

    1200

    1

    イニシャルコスト(億円)

    設備利用率(遮蔽効果あり)/
    設備利用率(遮蔽効果なし)

    1.2

    0.8
    0.6

    5m/s k=2 c=5.64
    6m/s k=2 c=6.77
    7m/s k=2 c=7.90
    8m/s k=2 c=9.03
    9m/s k=2 c=10.16
    10m/s k=2 c=11.28
    15m/s k=2 c=16.93

    0.4
    0.2

    1000

    600
    400
    200
    0

    0
    45

    55

    65
    風向(deg)

    75

    FST

    FMT

    FMT-YC

    85

    Fig. 10 イニシャルコスト試算結果

    Fig. 8 遮蔽効果による発電量変化

    4. 浮体ヨー制御の評価
    FMT-YC モデルにおいて、浮体ヨー制御
    の効率を計算した。実際の風速・風向変動
    を元に浮体ヨー制御を計算し、風と浮体の
    相対角度(Fig. 6 における風向 θ )を表した
    グラフが Fig. 9 である。なお風車間隔は
    1.5D とした。
    遮蔽効果が顕著になる相対角度は風車間
    隔 1.5D では、Fig. 7 より約 50deg 以上であ
    り、浮体ヨー制御により相対角度は数 deg
    に抑えられるため、遮蔽効果による発電量
    減少を大きく削減できることが分かった。
    2
    1.5
    1
    0.5

    5.2. 発電コストの感度解析
    様々な項目を変数とし感度解析を行った。
    それらの結果から代表的なものを Fig. 11〜
    Fig. 13 に示す。
    タワー高さ、風車搭載数、風車出力、喫
    水は発電コストへの寄与が大きい。これは
    浮体サイズに関わるパラメータであり、浮
    体建造費の削減による効果である。
    風車間隔による寄与は小さいが、これは
    浮体建造費の削減と遮蔽効果の増大による
    発電量減少が相殺するためで、特に遮蔽効
    果の大きい FMT では寄与が小さかった。
    海域条件では、水深による寄与では水深
    50m を越すと着底式よりも浮体式のほうが
    経済的であることが分かった。
    また、図中にはないが離岸距離による寄
    与は大きい。これは送電コストが離岸距離
    の関数として増大するためである。

    0
    -0.5

    0

    5000

    10000

    15000

    20000

    -1
    経過時間(min)

    Fig. 9 浮体ヨー制御計算結果

    発電コスト(円/kWh)

    浮体・風向相対角度(deg)

    風車
    浮体
    係留装置
    曳航・設置
    送電装置
    その他

    800

    5. 発電コストの評価

    FST
    FMT
    FMT-YC

    50.0

    70.0

    90.0

    110.0
    130.0
    Tower高さ(m)

    150.0

    170.0

    Fig. 11 タワー高さによる感度解析結果
    60.0
    発電コスト(円/kWh)

    以上の検討を元に秋田港沖(離岸距離
    20km...

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