(3,066字) 近代市民社会と現代における社会的協同について、ヘーゲルの思想に焦点を当てながら考える。
近代市民社会について
ドイツの思想家であるヘーゲルは、「市民社会」という既存の概念に対して徹底的な批判を行った。市民社会とは最終形態ではなく、乗り越えられるべき自然状態であると説いたのである。その議論は、彼の著書「人倫の体系」において展開されている。
ヘーゲルによれば、客観的精神には法・道徳・人倫という3つの段階があるという。法は人格に関わり、人間を外面的に規定する。道徳は主観に関わり、人間を内面的に規定する。そして人倫は共同体に関わり、人間を全面的に規定する。つまり人倫は法と道徳を総合したものであり、これが具体的な社会制度として体現されるのである。
この人倫の中にも家族・市民社会・国家という3つの段階があるが、自然な共同体である家族は子供が成人すると解体し、それぞれの人間が独立する。これらの自立した個人が結合したものが、市民社会である。労働によって欲望を媒介し、司法によって所有を保護し、福祉によって個人の利益を管理する。しかしヘーゲルは、市民社会では人口と産業が発展する一方で労働者の隷属が増え、享楽と貧困、退廃が生まれると主張した。彼はこの市民社会の状態を「欲望の体系」「人倫...