(2,924字) 近代市民社会の成立を推進することとなった理念が、17~18世紀に生まれた「社会契約説」である。この思想は人権保障や民主政治の基礎となり、ヨーロッパの市民社会の発展に大きな役割を果たしてきた。
近代市民社会 ~市民革命と社会契約説~
近代市民社会の成立を推進することとなった理念が、17~18世紀に生まれた「社会契約説」である。この思想は人権保障や民主政治の基礎となり、ヨーロッパの市民社会の発展に大きな役割を果たしてきた。
この社会契約説の原型を最初に理論化したのが、イギリスの哲学者トマス・ホッブズである。社会契約説はのちにジョン・ロック(イギリス)やジャン・ジャック・ルソー(フランス)によって発展的に継承され、また多くの批判も受けたが、政治の基本単位を人間個人とした点で、ホッブズの考え方は非常に革命的であった。彼の主著『リヴァイアサン』で提唱されている思想は、近代ヨーロッパに限らず現代にも通じる政治学として、今日でも繰り返し援用されている。それは、ホッブズの理論が「人間個人の幸福」という時代を超えた目的を軸に組み立てられているからである。
ホッブズだけでなくロックやルソーにも共通する社会契約説の特徴として、まず人間の「自然状態」を想定しているという点が挙げられる。ホッブズはここから「自然権」という発想を生み出した。彼によれば、自然状態とは人間が国家や政府を持たない状態であり、...