新基本会社法
第1編 会社法総論
第1章 会社制度の意義
個人でももちろん企業を経営することはできる。しかし個人の能力には自ら限界がある。企業の規模が少しでも大きくなれば資本の結合,労力の補充などにつき他人の協力を得なければならない。多数の人が相寄り相集まり,資本を出し合い,労力を補充し合い,共同の力で企業の経営を行うことが必要である。そのためにとられるのが共同企業の形態である。
このような共同企業の形態には組合組織(民667,商535)もあるが,その典型は会社制度である。会社は,一方において多数の者の資本・労力の結合を可能にさせ利益の拡大に資するとともに,他方において,万一損失を受けた場合にも多数の者に損失を分担させ一人当たりの被害を少なくし,危険の分散・軽減に資するなどの大きな長所を持っている。このゆえに会社は,広く普及し,われわれの経済生活の全面に進出している。まさに会社は,今日の資本主義制度を支える中核的存在である。
このように会社は,本来私的利益追求のための経済的組織であるが,それにとどまらず社会的にも大きな機能・役割を果たしている。会社は,企業経営者および株主などの利益追求の場であるだけでなく,多数の労働者にとって労働の場であり,賃金獲得の場である。とともに会社は,消費者に対し必要とされる商品およびサービスを提供する。一方,その事業活動は,地域の環境・行政・住民生活にも影響を与えずにはおかない。そして会社の規模が大きくなるに伴い,会社のかかる社会的機能・役割は,ますます大きくなる。会社の社会的責任が云々されるゆえんである。
第2章 会社法の観念・法源等
第1節 会社法の観念
会社法とは,会社の設立,組織,運営および管理に関する法律をいう(1)が,このように会社を規制する会社法には,形式的意義の会社法と実質的意義の会社法とがある。前者は,法典としての会社法をいう。これに対し後者は,一般に法形式のいかんを問わず,実質的に会社という企業主体ないし形態に特有な法規の総体であり,具体的には会社の成立から消滅に至るまでの団体の組織・運営および会社と構成員の内外の法律関係につき特別の法的規制を加える法をいう。この両者は,基本的には一致しているが,前者には私法的法規のほか,その実現を保障する多数の公法的法規が含まれている一方,後者には会社法典のほか他の法令,慣習法,判例法等も含まれているのであり,両者は完全に一致しているわけではない。
第2節 会社法の法源
実質的意義の会社法は,いかなる形で存在しているかという問題である。会社法の主たる法源としてもっとも重要なものは,形式的意義の会社法であるが,その他担保付社債信託法,社債等登録法,会社更生法,商業登記法,社債・株式等の振替に関する法律などの特別法が重要である。このような制定法のほか,商慣習法も法源となる。さらに商事自治法として定款を法源とする見解もある。
会社に関する法律関係については,会社の定款がまず適用され,つぎいで会社に関する一般法たる会社法の規定が適用される。ただし,特別法において会社法の規定を補完・変更している場合には,これら特別法の規定が会社法の規定に優先して適用される。そして以上に規定がないときは,商法慣習法および民法を適用する。
第3節 株式会社の法的規制の特色
株式会社の法的規制には,以下に述べるような特色がある。
1 強行規定性
株式会社においては,人的関係のない多数の者の利害が複雑に対立している。これを自由に放任しておくと,それ
新基本会社法
第1編 会社法総論
第1章 会社制度の意義
個人でももちろん企業を経営することはできる。しかし個人の能力には自ら限界がある。企業の規模が少しでも大きくなれば資本の結合,労力の補充などにつき他人の協力を得なければならない。多数の人が相寄り相集まり,資本を出し合い,労力を補充し合い,共同の力で企業の経営を行うことが必要である。そのためにとられるのが共同企業の形態である。
このような共同企業の形態には組合組織(民667,商535)もあるが,その典型は会社制度である。会社は,一方において多数の者の資本・労力の結合を可能にさせ利益の拡大に資するとともに,他方において,万一損失を受けた場合にも多数の者に損失を分担させ一人当たりの被害を少なくし,危険の分散・軽減に資するなどの大きな長所を持っている。このゆえに会社は,広く普及し,われわれの経済生活の全面に進出している。まさに会社は,今日の資本主義制度を支える中核的存在である。
このように会社は,本来私的利益追求のための経済的組織であるが,それにとどまらず社会的にも大きな機能・役割を果たしている。会社は,企...