AGIL図式で分析する日本社会(仮)
社会学科一年 甘利 奈知
パーソンズが提唱したAGIL図式で現在の日本社会を分析する。まずA(適応)には、『貿易を主とする市場の動向への対応』、『他国との情報交換』『自然災害への対策』『外国人就労者の受け入れ』があたるだろう。この中で特筆すべきは、『外国人就労者の受け入れ』で、その総人数は2003年には1990年の26万人から約3倍の79万人に上昇している点である。人口減少の道を辿る日本が今後どの程度外国人就労者を受け入れるかは大きな課題となってくるだろう。一方『自然災害』に関して、日本は毎年台風による被害が後を断たず、昨年の台風上陸数は過去最多である。また不定期的に起こる地震により、多数の死傷者がでた例も少なくない。わが国にとって、自然災害は深刻な問題であり、対応策を考案していくことは日本社会存続の要件だといえるのではないか。
次にG(目標達成)には『経済成長のための労働』『国民の健康維持のための施設建設』『医療技術・情報関連技術の開発のための予算分与』『経済協力等を通した国際貢献のための経済発展』があげられる。しかし、『経済成長』という点において、実質GDPの対前年度増減率を経済成長率として分析すると、高度経済成長期にあたる1956年~1973年には平均9.1%であったが、1974年~1990年には平均3.8%、1991年~2003年には、平均1.2%と低下、近年では。マイナス数値も記録し、経済成長率は伸び悩んでいる。その結果として各企業の人員削減が推進されていることも現実である。それに関連し、経済成長率が低下しているため、国民の『他国への経済協力』に対する意識も変化している。というのは、世論調査の結果では「積極的に進めるべき」との回答が1990年代から急減少し2000年からは「控えるべき」と逆転した。このように経済的な目標達成は難局化しているようだ。
続いてI(統合)には『法律』『都(道府県)庁・市(区郡町村)役所の存在』『地域の組織やその活動』『マスメディアの存在』があたる。ここで、最重要なものは、無論『法律』である。日本社会を律していく中で、法律はすべての規範となり善悪の決定基準となる。しかし、それは犯罪や違反を取り締まると時に有効なものであり、実際の生活で大役を果たしているものは『マスメディア』ではないだろうか。社会の変動を含めた殆どの情報を国民はまず新聞やテレビ、若しくはネット上で知る。テレビの一世帯あたりの普及率が2000年に99.0%を上回ったことからもメディアの重要性がわかるだろう。一方、『役所・役場』に関しては国が分割統合する最小機関であり、国民の生活を支える役目を果たしている。また自治会など『地域の組織』は諸問題の解決や親睦を深める運動会などの活動を通して住民を統合しているといえる。統合は大規模な集団である日本社会において最も重要な機能要件ではないだろうか。
最後にL(潜在的パターンの維持と緊張処理)には『教育』や『刑務所・少年院』『相撲や着物など伝統文化の伝承』があげられるだろう。『教育』においては具体的に保育園、幼稚園、小中学校、高等学校、大学、塾関係の機関やメディアを利用した教育番組、教育書籍がある。わが国の大学・短期大学進学率は1989年度の35.2%から急上昇し、2000年度には49.1%に達したことから教育機関の重要性が伺える。しかし全国の有権者3000人を対象とした読売新聞の調査によれば学校教育に不満があるとの回答は71%に達し、塾に通わすことに賛成する親は55%と半数を超えているため、今後教育の信頼性、さらには平等性までもが深刻な問題となるだろう。また『伝統文化』に関しては、例に畳がまだ日本の住宅の多くに敷かれていることが考えられる。畳の価値は祖先から伝達され、やがて内面化し日本特有の住宅の素材として今日に至っている。
ここで、AGILの互いの依存性を考えてみると、Aにあげた外国人就労者を受け入れることによりI、つまり統合性が失われる。というのは、外国人就労者が増加するに伴い不法残留者も増加するからだ。1990年時は11万人だった不法就労者は2003年には倍の22万人に達している。今のように不法残留者への対応が徹底されていない状態で今後外国人就労者を受け入れていくと社会の無秩序化が進行するだろう。