『十六夜日記』は知っていても、『うたたね』を知らない人は多いのではないだろうか。かく言う私もその一人なのだが、今回レポートを書くにあたって様々な資料を読むうちに、阿仏尼はこの時代の女性としてはかなり珍しい「行動力のある女性」だと強く感じた。その行動力はどこから来るものなのか考えながら、『うたたね』の感想を述べていきたい。
『うたたね』は、阿仏尼の若い頃の失恋の顛末と、それに続く事件を書き記した日記文学である。大雑把に区分してみると、?失恋事件、?出家事件、?遠江出向事件、の三つの事件が、『うたたね』の核になっている。
まず、?失恋事件である。最初、作者が恋愛に疲れたと思い悩んでいるシーンから始まる。相手の訪れが疎遠になり、恋に夢中になってしまった自分を後悔している場面だ。
そこで疑問に思ったのは、どうして恋の相手である男性の描写が曖昧なのか、ということだ。作者の人生を大きく変えることになった人物にもかかわらず、彼について分かっていることは、身分が高いことと、北の方(正式な妻)がいたことくらいである。また、彼だけでなく他の登場人物にも、わずかに作者との関係を推測することができるのみの、曖昧な描写の者が多い。資料を読む限り、これは相手が誰なのかということを隠したいから、という訳ではないらしい。主要人物をあえて曖昧に書くことにより、作者の失恋という「事件」を、より際だたせようとしたのだ。ならば、作品の展開において役割を果たすことができれば、具体的な描写はいっそない方が良い。それとは逆に、作者が遠江へ向かう途中に出会う女性や浜の人々は、実に躍動的に書かれている。これは作者が体験したことそのものを書いているからだろう。
事件は、?出家事件へと続く。一人で出家を決め、夜中にこっそり剃髪し、単身尼寺へ向かう阿仏尼。尼になるということは、この時代では大変なことだ。
「うたたね」と阿仏尼
『十六夜日記』は知っていても、『うたたね』を知らない人は多いのではないだろうか。かく言う私もその一人なのだが、今回レポートを書くにあたって様々な資料を読むうちに、阿仏尼はこの時代の女性としてはかなり珍しい「行動力のある女性」だと強く感じた。その行動力はどこから来るものなのか考えながら、『うたたね』の感想を述べていきたい。
『うたたね』は、阿仏尼の若い頃の失恋の顛末と、それに続く事件を書き記した日記文学である。大雑把に区分してみると、①失恋事件、②出家事件、③遠江出向事件、の三つの事件が、『うたたね』の核になっている。
まず、①失恋事件である。最初、作者が恋愛に疲れたと思い悩んでいるシーンから始まる。相手の訪れが疎遠になり、恋に夢中になってしまった自分を後悔している場面だ。
そこで疑問に思ったのは、どうして恋の相手である男性の描写が曖昧なのか、ということだ。作者の人生を大きく変えることになった人物にもかかわらず、彼について分かっていることは、身分が高いことと、北の方(正式な妻)がいたことくらいである。また、彼だけでなく他の登場人物にも、わずかに作者との関係を推測...