窪田静太郎にみる各種制度概念の検討-社会的制度・社会政策・社会衛生・社会事業-
目次
はじめに
第1章 窪田論文の概観-時代背景と窪田論文-
第1節 原始蓄積期
第2節 産業資本確立期
第3節 日本帝国主義形成期
第4節 独占資本主義確立期
第2章 窪田論文の分析-先行研究をもとに-
第1節 吉田久一の見解
第2節 横山和彦の見解
第3節 仲村優一の見解
第4節 野口友紀子の見解
第3章 窪田の制度概念の検討-社会的制度・社会政策・社会衛生・社会事業-
第1節 窪田論文の分析視角
第2節 各制度の対象
第3節 まとめと今後の課題
はじめに
窪田静太郎は、「明治期以降の救済事業官僚の代表的人物」(吉田[1990:94])であり、「わが国の草創期の社会事業を築き上げた偉大な功労者」(平田[1980:i])である。さらに、「官僚中もっとも社会問題に造詣が深く、とくに社会的弱者保護の社会行政の開拓に精進し、貧窮への社会的対応策に没頭」した窪田は、「実務と理論の両面において日本の社会政策・社会事業史上顕著な役割を演じた」(平田[1980:i])と評される。
窪田は、1898年に日本最初の社会保険法案である「労働者疾病保険法案」を立案した。同時期に、欧州各国の衛生施設等の調査を行っている。1900年には、農商務省商工局工務課長となり、「工場法案」の調査を行っている。また、1900年には貧民研究会を結成している。1903年から1910年においては、衛生局長を務めている。
本稿では、まず、第1章において、窪田論文と、それらが書かれた時代状況について概観する。第2章では、窪田論文についての先行研究をもとに、その分析視覚についての検討を行う。第3章では、第1章、第2章をふまえ、窪田の抱いた各種制度概念を分析することとする。
第1章 窪田論文の概観-時代背景と窪田論文-
窪田論文の概観を示すにあたり、まず、その背後にある時代状況と、窪田論文の要旨を示すこととする。この時期の時代状況については吉田久一の『日本貧困史』『日本の貧困』が詳しい。よって、このなかにおける吉田がなした時代区分に関して多少の表現の違いはあるが、原始的蓄積期、産業資本確立期、日本帝国主義形成期、独占資本主義確立期の順に、時代状況と、窪田論文の要旨をしめす。
第1節 原始蓄積期
吉田は、原始蓄積期を、地租改正前後から日清戦争前としている。すなわち、1873年ごろから、1894年までの時期である。今回取り上げる窪田論文の最初のものが1899年のものであり、よって、窪田論文との関わりでいうならば、前史である。しかし、直前期までの時代状況を理解することは窪田論文を理解するにあたって重要であると考えるので、取り上げる。
原始的蓄積期とは、一般的な意味では、「生産者と生産手段との歴史的分離過程」であるといえる。しかし吉田は、日本においての原始蓄積期を、貨幣金融制度の統一、地租改正、秩禄処分、官業払下げ等一連の過程であるとする。封建的生産者等を「働く貧民」とし、その中から賃労働者の形成が始まるのだが、同時に、資本主義的貧困の一般的形成もなされる。日本における原始的蓄積の主要素としての上記の4つについて簡単に触れる。
まず、貨幣制度の全国的統一である。このことは、資本主義国家発足の不可避的前提である。その強行は結果として、国民生活に貧困を招来する過程となった。明治政府が、殖産興業
窪田静太郎にみる各種制度概念の検討-社会的制度・社会政策・社会衛生・社会事業-
目次
はじめに
第1章 窪田論文の概観-時代背景と窪田論文-
第1節 原始蓄積期
第2節 産業資本確立期
第3節 日本帝国主義形成期
第4節 独占資本主義確立期
第2章 窪田論文の分析-先行研究をもとに-
第1節 吉田久一の見解
第2節 横山和彦の見解
第3節 仲村優一の見解
第4節 野口友紀子の見解
第3章 窪田の制度概念の検討-社会的制度・社会政策・社会衛生・社会事業-
第1節 窪田論文の分析視角
第2節 各制度の対象
第3節 まとめと今後の課題
はじめに
窪田静太郎は、「明治期以降の救済事業官僚の代表的人物」(吉田[1990:94])であり、「わが国の草創期の社会事業を築き上げた偉大な功労者」(平田[1980:i])である。さらに、「官僚中もっとも社会問題に造詣が深く、とくに社会的弱者保護の社会行政の開拓に精進し、貧窮への社会的対応策に没頭」した窪田は、「実務と理論の両...