箱男とは、ダンボールの箱を頭からすっぽり被り、街を徘徊する人間のことである。箱に開けられた小さな穴から外世界を覗くことはできるが、外世界からは自分の姿を見られることはない。また、箱男とは、浮浪者や乞食とは異種の存在なのである。浮浪者や乞食はかろうじて社会の一員として踏みとどまっているが、箱男は自発的に市民社会から逃げ出し、蒸発した人種である。それゆえに、社会に存在しないものとして取り扱われるのである。この作品はこの箱男を一人称として展開していく物語であると私は、想像していたのだが、読み進めていくうちに様々な登場人物が現れ、この記録を書いているのはいったい誰なのか、人称に混乱させられるはめになった。読み手を混乱させる。この点こそが、この作品のメインテーマなのであろうとしか言いようがない。本文からの一説で「そこで、考えてみてほしいのだ。いったい誰が、箱男ではなかったのか。誰が箱男になりそこなったのか。」とある。この作品の冒頭部分では「ぼく」が箱男であったが、中盤あたりにくると、医者と呼ばれる人物が登場し、「ぼく」の箱を五万円で買い取ろうとする。そのあたりからこの物語は混迷しはじめる。途中、さまざまな人物が書き手となった。そしてまた、本文とは一見無関係とみるしかないショートストーリーと添付されている写真を無理やりその場面で本文と結び付けようとして、ますます混乱してしまった。ここはひらきなおって、安部公房という人物の内の「箱男」という設定が彼自身に働きかけ彼自身の内なるものを発動させてしまった、つまりこの作品の書き手が暴走してしまったのだと思うことで自分自身を納得させたのである。
箱男の行う行為、つまり「覗くが、覗かれない」は市民社会の側(浮浪者や乞食も含む)から見て許しがたい越権行為であり、何らかの迫害行為をうけることは避けられないといえよう。
箱男を読んで
箱男とは、ダンボールの箱を頭からすっぽり被り、街を徘徊する人間のことである。箱に開けられた小さな穴から外世界を覗くことはできるが、外世界からは自分の姿を見られることはない。また、箱男とは、浮浪者や乞食とは異種の存在なのである。浮浪者や乞食はかろうじて社会の一員として踏みとどまっているが、箱男は自発的に市民社会から逃げ出し、蒸発した人種である。それゆえに、社会に存在しないものとして取り扱われるのである。この作品はこの箱男を一人称として展開していく物語であると私は、想像していたのだが、読み進めていくうちに様々な登場人物が現れ、この記録を書いているのはいったい誰なのか、人称に混乱させられるはめになった。読み手を混乱させる。この点こそが、この作品のメインテーマなのであろうとしか言いようがない。本文からの一説で「そこで、考えてみてほしいのだ。いったい誰が、箱男ではなかったのか。誰が箱男になりそこなったのか。」とある。この作品の冒頭部分では「ぼく」が箱男であったが、中盤あたりにくると、医者と呼ばれる人物が登場し、「ぼく」の箱を五万円で買い取ろうとする。そのあたりからこの物語は混迷し...