(本文)
まず手形の偽造とはなにかというと、一般に権限なくして他人の名義の署名をもって、手形行為の外形を作り出すことである。他人とは実在人でもよいし、仮設人でも問わない。また手形偽造の方法は新しく偽造手形を作り出すのと、既存の手形の真正な署名を他の名義に改変し、あるいは新しく偽造の署名を付加するのとを問わない。手形偽造がなされたときに、偽造者は、手形上の責任を負うのか、それとも損害賠償を負うのみなのかについて解釈上の議論がある。
偽造者は、自己名義で手形に署名していないので、「署名なければ責任なし」という原則からすれば、手形の責任を負わないとするのが従来の判例・通説の考え方だった(大判大12.3.14民集2巻3号103頁)。つまり、偽造者はその名称が手形上に表示されていないので、手形債務を負担させる責任を負わすことができず、実際上も手形面上に偽造者が表示されていないので、第三者がそれを信頼するということもないからである。だから手形偽造者は民法上の不法行為による損害賠償責任(民709条)や、刑法上の有価証券偽造罪(刑162条)としての責任を負うのみである。
しかし、他人が手形行為の主体であるかのように見せかけた点で、手形偽造も無権代理も同じことをしているのにもかかわらず、責任が違うのでは不均衡である。無権代理人の場合には手形面上にその名称が表示されているので、本人と同じ責任を負い、偽造者の場合にはその名称が手形面に表示されていないから手形責任を免れる。しかも、偽造手形の取得者が偽造者に対して求められる賠償額は手形金自体でなく、その手形を取得するために現に支払った金額である(大判大12.3.14民集2巻3号103頁)。これも考慮すると、手形偽造者と無権代理人である場合の責任の差は不均衡である。
(序論)
以下において、手形の偽造者の責任について説明することにする。
(本文)
まず手形の偽造とはなにかというと、一般に権限なくして他人の名義の署名をもって、手形行為の外形を作り出すことである。他人とは実在人でもよいし、仮設人でも問わない。また手形偽造の方法は新しく偽造手形を作り出すのと、既存の手形の真正な署名を他の名義に改変し、あるいは新しく偽造の署名を付加するのとを問わない。手形偽造がなされたときに、偽造者は、手形上の責任を負うのか、それとも損害賠償を負うのみなのかについて解釈上の議論がある。
偽造者は、自己名義で手形に署名していないので、「署名なければ責任なし」という原則からすれば、手形の責任を負わないとするのが従来の判例・通説の考え方だった(大判大12.3.14民集2巻3号103頁)。つまり、偽造者はその名称が手形上に表示されていないので、手形債務を負担させる責任を負わすことができず、実際上も手形面上に偽造者が表示されていないので、第三者がそれを信頼するということもないからである。だから手形偽造者は民法上の不法行為による損害賠償責任(民709条)や、刑法上の有価証券偽造...