ボードレール『悪の華』「パリ情景」「葡萄酒」における孤独
ボードレールの詩集「悪の華」の「パリ情景」と「葡萄酒」の章から、百番目の無題詩(あなたがお嫉みだった、高潔な心を抱くあの女中……)、「殺人者の葡萄酒」、「孤独な男の葡萄酒」の3つの詩篇を引用し、そこに描かれる孤独について考察する。
まず、それぞれの詩に描かれている孤独者について考える。
「孤独な男の葡萄酒」
この詩のタイトルにもなっている「孤独な男」とは « poète »「詩人」である。この詩の前半の2節では、詩人を誘惑する様々なものを挙げている。それは、 « Le regard singulier d’une femme galante»(浮かれ女のいわくありげな視線)、« Le dernier sac d’ecus dans les doigts d’un joueur » (博打打ちの指にある最後の金貨袋)、 « Un baiser libertin de la maigre Adeline » (痩せたアドリーヌの淫らなくちづけ)、 «Les sons d’une musique énervante et câline »(無気力にさせるような甘ったれた音楽の響き)である。これらは詩人の視覚・触覚・聴覚を刺激しているといえるが、詩人の餓えた心はそのようなものには動かされず、酒の « Les baumes pénétrants »(身にしみるような香り)を求めるのである。酒は孤独な詩人に、 «l’espoir, la jeunesse et la vie ― Et l’orgueil»(希望、若さ、生気―そして、傲慢)を与えてくれるものである。
また、この詩人には、 « pieux »(敬虔な、信心深い)という形容詞が付いている。酒が詩人に与える高慢さというのは、 « Qui nous rend triomphants et semblables aux Dieux! »(我々を勝ち誇らせ、神に似た存在にさせる)とあることから、詩人の敬虔さを忘れさせるものであるといえる。
「殺人者の葡萄酒」
この詩は、 « Ma femme est mort, je suis libre! »(妻が死んだ、俺は自由だ!)という言葉から始まり、妻を殺した男の、好きなだけ酒が飲めるという解放感を描いている。殺人者は、 « Autant qu’un roi je suis heureux ; L’air est pur, le ciel admirable… »(俺は王様と同じぐらい幸せだ。空気は澄んで、空はすばらしい)といったように幸福を得て、酒を飲み、妻を忘れてしまおうとする。ところが、第7節には、 « Elle était encore jolie » (彼女はまだ綺麗だった)、« Je l’aimais trop ! » (俺は彼女をあまりに愛していた)とあり、続く第8節には、 « Nul ne peut me comprendre. »(誰も俺を理解できない)とある。第10節では、 « avec ses…,son… »と所有形容詞が繰り返され、妻についての様々なことを思い出している。そして第11節は、 « ―Me voilà libre et solitaire ! »(俺は自由、そして孤独だ)という行で始まっている。« libre»は一行目の繰り返しであるが、ここではさらに 、« solitaire »という語が加わっている。この男にあるのは、ただ解放感だけではなく、殺してしまったも