ロスト・ジェネレーションの作家について具体的
に作品をとりあげて述べよ。
ロスト・ジェネレーションとは、戦争に参加してその体験を背負ってアメリカに帰ったのちにヨーロッパに渡った人たちのことを指し、戦争体験によって既存の理想や価値観に不信感を抱き、若いエネルギーをもって、新しい生き方を求めた世代である。ガートルード・スタイン(Gertrude Stein, 1874-1946)がヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway, 1899-1961)に対して言った言葉 “You are all a lost generation.”による。それらの人物を扱った作家がロスト・ジェネレーションの作家であり、ヘミングウェイの他、フィッツジェラルド(Francis Scott Key Fitzgerald, 1896-1940)、ドス・パソス(John Dos Passos, 1896-1970)、フォークナー(William Cuthbert Faulkner, 1897-1962)などがいる。
フィッツジェラルドの代表作が『偉大なるギャッツビー』(1925)である。主人公は貧しい家庭の出身で、成功を夢見て都会の上流社会にやってくるが、挫折を味わい、最終的に殺されてしまうという話で、当時の人々が抱えていた矛盾が見事に表現されている。この作品では、第一次世界大戦で受けた傷によってこれまでのアメリカの伝統的な価値観が破壊されたことが、アメリカの悲劇として表わされた。従来の客観的に描写する手法から、話者が主人公の物語を語る手法をとったことで、途中の場面に全体を象徴する意味を付与することができ、ギャッツビーの中に建国以来のアメリカのフロンティア・スピリットや理想主義を凝縮させ、これにより退廃した現代の産業社会に埋もれてしまう様を印象づけた。
またこの時代、19世紀のヴィクトリア朝のモラルから解放的、享楽的な時代へと世界は変貌し、「フラッパーズ」と呼ばれる女性達を生み出した。フィッツジェラルドは、フラッパーの女王と呼ばれていたゼルダとの結婚や、ジャズ・エイジの旗手として毎夜のパーティーに明け暮れる濫費と無軌道な生活、ゼルダの精神病の発作と自身の過労と酒による疲弊により行き詰まり、人気も凋落して、金銭的な理由により作品を発表することがほとんどで金に困ると短編集を出したりハリウッドで脚本を書くなど、その生き方はロスト・ジェネレーションの退廃的な雰囲気を反映している様に思える。
ドス・パソスは第一次世界大戦に積極的に参加しており、代表作にその当時の時代様相を時代の波に翻弄された人間を通して描いた『U.S.A』がある。この作品は第一部『北緯42度線』(1930)、第二部『1919年』(1932)、第三部『巨富』(1936)の三部から成り、資本主義確立期のアメリカにおいて、いかに人間が社会機構の網の目に捉えられて破滅もしくは退廃していくかを、12人の主要人物の物語の交錯によって描き出し、その基調は革命的というよりむしろ宿命的であり、悲劇的である。
フォークナーはアメリカ南部に居を置いた作家で、伝統的な家の親戚縁者から聞いた話や黒人の乳母から聞いた昔話など南部の物語が彼の内面に深く刻み込まれ、作品にも影響を与えた。『兵士の報酬』(1926)では第一次世界大戦で重傷を負い、生きる屍となって南部の郷里に帰った兵士や戦争未亡人のことを描いている。彼の作品の多くは、架空の土地「ヨクナパトーファ」を舞台とし、新しい土地を開発し、貴族と奴隷達との農園生活が築