「20世紀後半におけるアメリカ社会の多様化・異質性の増加と、これまでたどってきたアメリカ社会の文脈を考え合わせ、アメリカ人はどんな社会を理想とすべきと考えていると思われるか。」
アメリカ人が描く理想の社会とは何でしょうか。そもそも移民国家であり、今日では人種のサラダボールとも形容されるアメリカにおいて、国民それぞれの立場によって要求も異なるはずであり、単一の理想条件の設定など夢物語ではないでしょうか。しかしこの問題をグローバルな視野で見直してみると、また違った筋道が見えてきそうです。単一の共通言語さえ持たないEU国家群の経済統合への取組み、あるいは環境問題を接点にした全世界各国の協働など、これらは、いずれも、それぞれ異なった立場の者達がひとつの理想に向かってひとつの社会を形成しているとも云えるのであって、ここら辺に、アメリカの向かうべき理想、その社会の条件やコツといったものが見えてくると思われるのです。本稿では、アメリカ社会がその理想的発展を今後も遂げていくための根本原理とは何か、という点に焦点を絞って述べたいと思います。また、その原理を定めるための根拠を、アメリカ人のたどってきた歴史に求めていきます。
アメリカ社会は元来、人種・民族的に多様性を帯びています。1970年代以降は、アジア系さらにヒスパニック系の人口も急増しており、20世紀後半、アメリカの人口構成は確実に複雑化し多様化しているといえます。さらに人口構成の変化とは別に中絶、同性愛、家庭、教育についての見解の相違も激しく、多文化主義、文化戦争といわれる事態にまで進展していますし、宗教の種類も勿論多い。それゆえアメリカ社会が分裂する危険性も指摘されており、それを防ぐため如何にアメリカが共通の文化を持ち価値観を統一してゆくかが課題となっているのです。
「一体アメリカ人共通の事柄とは何であろうか?」この問い掛けは、アメリカ人にとってのアイデンティティの深刻な問題です。人種や種々の点において統一性に欠けていたため、アメリカ社会は法的な契約関係を結び、共通の考え方や価値の観念あるいは信条を共有することによって、ナショナリズムの高揚による統一をはかってきたのではないでしょうか。 入植当初、そうした基準となる価値体系を保有したのはイギリス系アメリカ人でしたが、ピルグリムズですらピューリタンばかりの一元的集団ではなかったのです。1620年、彼らは太平洋を渡るメイフラワー号の中で「メイフラワー誓約」を取り決めましたが、これはリーダー不在の集団は会議で相談するという意思決定方法しかもたなかったからなのです。これは後に議会制民主主義として成り立つものでした。
今日、アメリカ社会の人種的・宗教的・文化的多元性は、プリマス当時とは比較にならないくらい複雑化していますが、今もその思想は生きていると思います。一つの社会に統合する場合、色々な接点から契約を交わします。その上で共同生活を開始するのです。つまり人種の坩堝、今日では人種のサラダボールと云われて久しいですが、最終的には移住してきた皆が同じボールの中でひとつの基準に従って同化することが求められるのです。 これは独立宣言、そして合衆国憲法の創立により、彼らは一つと化してきたということです。独立宣言にある生命、自由、幸福の追求という基本的な価値は、アメリカ社会全体の共有物であり「市民宗教」と云われうるものなのです。ゆえに独立宣言は共通の価値、共通の信条、共通の目標を、アメリカの人々に示したもので、アメリカ合衆国は合衆国憲法だけで成立しているのではなく、独立宣
「20世紀後半におけるアメリカ社会の多様化・異質性の増加と、これまでたどってきたアメリカ社会の文脈を考え合わせ、アメリカ人はどんな社会を理想とすべきと考えていると思われるか。」
アメリカ人が描く理想の社会とは何でしょうか。そもそも移民国家であり、今日では人種のサラダボールとも形容されるアメリカにおいて、国民それぞれの立場によって要求も異なるはずであり、単一の理想条件の設定など夢物語ではないでしょうか。しかしこの問題をグローバルな視野で見直してみると、また違った筋道が見えてきそうです。単一の共通言語さえ持たないEU国家群の経済統合への取組み、あるいは環境問題を接点にした全世界各国の協働など、これらは、いずれも、それぞれ異なった立場の者達がひとつの理想に向かってひとつの社会を形成しているとも云えるのであって、ここら辺に、アメリカの向かうべき理想、その社会の条件やコツといったものが見えてくると思われるのです。本稿では、アメリカ社会がその理想的発展を今後も遂げていくための根本原理とは何か、という点に焦点を絞って述べたいと思います。また、その原理を定めるための根拠を、アメリカ人のたどってきた歴...