「純一が日記を書くことで隠蔽しようとしていた」という授業中に出された見方に沿って、私なりに純一の日記をこの物語の中でどう読んだかを考察していく。
まず注目したいことは、この日記は坂井夫人に会いに行った日の、二人の挙動や坂井夫人との間にあった出来事、純一の反省が主に書かれていることである。純一の想いの対象である坂井夫人は、世間ではやや風変わりな評価を下されている人物と設定されている。対して純一は、地方のY県出身であるが、上京してから早々に下宿を探している点、汽車に乗るとすれば一等を必ず使用している点から考えて経済低には恵まれた家庭で育った、学のある小説家希望の青年として描かれている。そして純一は、幼い頃から良い子を演じることに慣れており、「美少年」に進化した今でも、人から良く思われるために自然と演じている生活を送っている事を自覚している。
その様な純一は、自分の初めての女性はもっと健全な、下宿屋の娘であるお雪の様な女性であると考えていたであろうことは容易に想像できる。しかし純一が初めて気にした「目」を持つ女性は、未亡人であり旦那を亡くした後は一切の交友関係を断ち、どのように生計を立て...