(1)はじめに
動産に関して「占有者=所有者」とならないことも多いところ、「占有者=所有者」だと信じ、かつ、信じたことに過失がなかった人に対しては、「占有もの=所有者」であることの効果を認めてあげようというものが、即時取得制度である。
その背景には、物件は誰に対してでも主張できる権利であることから、公示の必要性が不可欠となってくるが、動産に関する公示の不十分性によって即時取得という制度がでてきた。即時取得が成立するためには6個の要件があるが、そのうちのひとつに「占有を取得すること」とある。即時取得が成立するための占有の要件はどうあるべきか、問題となる、「占有改定」と「指図による占有移転」の二つから検討していきたい。
(2)占有について
占有とは、法律上の根拠や権原の有無に関わらず、物を自己のためにする意思をもって事実上支配することを占有という。この事実上の支配に法的保護が与えられた権利を占有権という。所有権等の本権とは別に法が、事実上の支配状態に着目した占有権を認めている趣旨は、各個人の法的原状を保護することで、社会の秩序と平和を維持するところにある。効力として、三つの訴えを起こす権限を認めている。すなわち、占有保持の訴え(189条)、占有保全の訴え(199条)、占有回収の訴え(200条)である。これらをまとめて、占有訴権という。
占有改定(183条)とは、物の譲渡後も譲渡人が引き続きそのものを所持す場合になされる引渡しをいう。
指図による占有移転(184条)とは、目的物を第三者Cが保持している場合には、AがCに対し以後その物をBのために占有せよと命じ、Bがこれを承諾することによってなされる引渡しをいう。
占有改定と指図による占有移転は、現実の引渡し(182条1項)、簡易の引渡し(182条2項)と共に、「引渡し」の四つの態様のひとつである。
(3)即時取得について
即時取得とは、動産の占有者を所有者だと信じ、また、そう信じたことに過失がな
かった第三者を保護し、その第三者が有効にその動産の所有権を取得できるようにした制度である。要件として、
①目的物が「動産」であること
②前主が無権利者であること
③前主に占有があること
④無権利者との間に有効な取引行為が存在すること
⑤平穏・公然・善意・無過失であること
⑥占有を取得すること
があげられる。
(4)占有改定と即時取得
前述したように、即時取得は前主の権利者らしい外観を信頼したものを保護する制
度である。したがって、譲受人が前主の占有を信頼しさえすれば、成立が認められるようにも思える。しかし、192条は「占有を始めた」として、譲受人の占有取得を即時取得の要件としている。現実の引渡し(182条1項)や簡易の引渡し(182条2項)のように現実の譲受人が取得した場合は、もはやこの要件に関して問題が生じない。しかし、占有改定などの場合は、この要件を満たすといえるか。そこで、占有改定のように、譲受人が動産を直接占有してない場合にも即時取得が成立するか。占有改定による占有取得が、192条の「占有を始めた」にあたるかが問題となる。
(5)学説・判例Ⅰ
①肯定説(末広・松坂)
取得者の信頼保護を強調したものであり、条文上何の限定もないことから、占有改定も
「占有を始めたにあたるとする」とする説である。
占有改定では保護されないということは、取引の安全を甚だしく害すること、前主の権利者
らしい外観を信頼したものを保護するという本
(1)はじめに
動産に関して「占有者=所有者」とならないことも多いところ、「占有者=所有者」だと信じ、かつ、信じたことに過失がなかった人に対しては、「占有もの=所有者」であることの効果を認めてあげようというものが、即時取得制度である。
その背景には、物件は誰に対してでも主張できる権利であることから、公示の必要性が不可欠となってくるが、動産に関する公示の不十分性によって即時取得という制度がでてきた。即時取得が成立するためには6個の要件があるが、そのうちのひとつに「占有を取得すること」とある。即時取得が成立するための占有の要件はどうあるべきか、問題となる、「占有改定」と「指図による占有移転」の二つから検討していきたい。
(2)占有について
占有とは、法律上の根拠や権原の有無に関わらず、物を自己のためにする意思をもって事実上支配することを占有という。この事実上の支配に法的保護が与えられた権利を占有権という。所有権等の本権とは別に法が、事実上の支配状態に着目した占有権を認めている趣旨は、各個人の法的原状を保護することで、社会の秩序と平和を維持するところにある。効力として、三つの...