中央大学2009年課題
物権とは、特定の物を直接的・排他的に支配する権利のことをいうが、その効力として、優先的効力と物権的請求権が認められている。他人からの不当な干渉を受けて、所有者の自由な支配が妨害されている場合には、その妨害を排除して、所有権の内容を実現させることができる。そのための救済手段を物権的請求権という。
物権的請求権の根拠として定められた明文の規定はないが、判例・学説は、物権的請求権を認めている。この物権的請求権が認められる根拠として、(1)物権が直接、排他的な支配権であること、(2)いわば仮の権利にすぎない占有権にも、同様の場合につき占有訴権が認められるのであるから、これよりも強力な物権には、当然に物権的請求権が認められるべきこと、(3)形式的にも、民法は、占有訴権のほかに「本権の訴え」が存在することを前提としている(民法202条)。
物権的請求権には、物権的排除請求権、物権的妨害予防請求権、物権的返還請求権の3類型がある。以下では、物権的返還請求権について考察する。
物権的返還請求権とは、物権を有する者が物を奪われ、物の占有を全面的に排除された場合に、その物の引渡しや明渡しを請求する権利のことである。
この請求権の主体(原告)は占有を失った所有者である。賃借人・受寄者など占有代理人によって占有する所有者は、契約関係が終了する時、この占有代理人に対して所有権に基づき返還請求できるだけでなく、占有代理人が第三者に占有を奪われた時、この第三者に対しても同様に返還を請求できる。
請求の相手方(被告)は、その物を占有することによって所有権の内容を妨げている者である。この被告が占有しているかどうかは請求権の存否を確定する時を基準として定める。訴提起の時に相手方が占有していても、請求権の存否を確定する時点において占有を失っていれば、この請求権は成立しない。
相手方が占有を取得した理由は問わない。故意・過失や自分自身で占有を取得したことは必要ではないとされており、所有権に基づく返還請求権の要件事実は、原告の所有権と被告の占有である。権利そのものは証明することはできなく、証明の対象は事実であり、つまり、所有権の取得原因である。不動産である土地の場合、占有するかどうかは、建物の存在しない時は土地の事実支配があるかどうかによって判断するが、建物が存在すれば、建物所有者が土地を占有していると考えるべきである(建物は底地なくして存在できない)。建物が存在すれば、建物部分の底地だけでなく建物利用に必要な周辺部分の土地も占有していると考えてよい。また、建物所有者以外の者には建物の収去権限はなく、物権的返還請求権の相手方は建物を所有して土地を占有している者となる。
物権的返還請求権の相手方に関する判例であるが、競売で土地を競落した者が土地上に存在する建物の名義人に建物収去土地明渡訴訟を起こしたという事案がある(最判平6・2・8)。判決としては、土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきとし、物権的返還請求権の相手方は占有者であるとした。
そして、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は自らの意思に基づいて事自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、右土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できないというべきである。また、登記関係なしの建物の実質的所有者を建物収去・土地明渡しの義務者とすると、土地所有者はその探求の困難を強いられたり、相手方においては、たやすく建物の所有権移転を主張し、収去や明渡しの義務を免れることが可能となってしまう。これらを理由として、建物名義人に対する建物収去土地明渡請求を認めたのである。
以上、物権的返還請求の相手方につき、判例を踏まえて述べた。上記の判例では、建物名義人に対する建物収去土地明渡請求を認めたものである。私見としては、建物所有者こそが物権的返還請求権の相手方とされるべきであると思われる。なぜなら、土地の占有とは土地に対する事実支配であり、登記は占有にあたらないと言えるからである。したがって、登記名義人は、物権的返還請求権の相手方とならない。また、上記判例では、信義・公平の見地から建物収去土地明渡請求を認めている。このことから、土地所有者が建物譲渡の事実を十分に認識できた場合は建物名義人に対する建物収去土地明渡請求を認める必要はないと言える。
民法2(物権)第一課題
物権的返還請求権行使の相手方につき、不動産を中心に考察しなさい。