国連における平和構築の潮流

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    25 外務省調査月報 2006/No. 2
    国連における平和構築の潮流
    ─平和構築委員会設立─
    山内 麻里
    はじめに
    1.平和構築委員会設立の背景 : 国連に於ける平和構築の取り組みの変遷
      (1)平和構築概念の変遷
      (2)国連における調整・統合の取り組み
        (イ)国連本部における統合の試み
        (ロ)現場における統合の試み
        (ハ)経済社会理事
    会(経社理)による平和構築活動の調整の試み
      (3)平和構築委員会(PBC)
    2.平和構築委員会設置を巡る交渉 : 底流に流れる二つの問題
      (1)積み残し案件に係る交渉
        (イ)PBC の設置方法
        (ロ)当該国の関与の在り方
        (ハ)報告ライン
        (ニ)PBC の議題設定
        (ホ)組織委員会の構成
      (2)二つの根本問題
      (3)決議採択後の交渉
    おわりに
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    40
    41
    43
    研究ノート
    26 国連における平和構築の潮流
    「我々は、国連の中心的な役割を強調しつつ、世界が直面している多面的で相互に関
    連した課題や脅威によりよく対応するため、また、平和と安全、開発、人権の分野
    で進展を達成するため、国際法に従い、効果的な多国間システムの決定的な重要性
    を再確認する・・・」
    (2005 年国連首脳会合成果文書、「1. 価値と原則」より抜粋 )
    はじめに
     
     近年、国連において、平和構築支援活動が注目されている。紛争終結後、平和維
    持活動が成功を収め撤退した後、5 年以内に紛争に逆戻りするケースが 5 割にも上
    ると言われており、これに対する反省から、国際社会が、平和維持活動から復興、
    開発までを一貫して捉えた、継ぎ目無い支援を行う必要性を認識し始めたことが根
    底にある。
     2005 年 9 月、国連で開催された国連首脳会合で、成果文書(World Summit
    Outcome: WSO)が採択された。成果文書は、開発、平和と安全保障、人権と法の支
    配等の幅広い分野における、今後の国際社会の政策方針を定めたが、その成果の一
    つが「平和構築委員会 (PBC) の設置」である。成果文書は、「持続可能な平和を達成
    するため」、「調整され、一貫性があり、統合されたアプローチが必要である」として、
    「持続的開発の基礎」作りを支援する制度的な仕組みとして、PBC の設置を決定した。
    これは、過去に国連が効果的平和構築支援のあり方を検討し、それを踏まえ実践し
    てきた経験を活かした結果であった。
     この成果文書採択から 9 ヶ月後、2006 年 6 月 23

    資料の原本内容

    25 外務省調査月報 2006/No. 2
    国連における平和構築の潮流
    ─平和構築委員会設立─
    山内 麻里
    はじめに
    1.平和構築委員会設立の背景 : 国連に於ける平和構築の取り組みの変遷
      (1)平和構築概念の変遷
      (2)国連における調整・統合の取り組み
        (イ)国連本部における統合の試み
        (ロ)現場における統合の試み
        (ハ)経済社会理事
    会(経社理)による平和構築活動の調整の試み
      (3)平和構築委員会(PBC)
    2.平和構築委員会設置を巡る交渉 : 底流に流れる二つの問題
      (1)積み残し案件に係る交渉
        (イ)PBC の設置方法
        (ロ)当該国の関与の在り方
        (ハ)報告ライン
        (ニ)PBC の議題設定
        (ホ)組織委員会の構成
      (2)二つの根本問題
      (3)決議採択後の交渉
    おわりに
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    研究ノート
    26 国連における平和構築の潮流
    「我々は、国連の中心的な役割を強調しつつ、世界が直面している多面的で相互に関
    連した課題や脅威によりよく対応するため、また、平和と安全、開発、人権の分野
    で進展を達成するため、国際法に従い、効果的な多国間システムの決定的な重要性
    を再確認する・・・」
    (2005 年国連首脳会合成果文書、「1. 価値と原則」より抜粋 )
    はじめに
     
     近年、国連において、平和構築支援活動が注目されている。紛争終結後、平和維
    持活動が成功を収め撤退した後、5 年以内に紛争に逆戻りするケースが 5 割にも上
    ると言われており、これに対する反省から、国際社会が、平和維持活動から復興、
    開発までを一貫して捉えた、継ぎ目無い支援を行う必要性を認識し始めたことが根
    底にある。
     2005 年 9 月、国連で開催された国連首脳会合で、成果文書(World Summit
    Outcome: WSO)が採択された。成果文書は、開発、平和と安全保障、人権と法の支
    配等の幅広い分野における、今後の国際社会の政策方針を定めたが、その成果の一
    つが「平和構築委員会 (PBC) の設置」である。成果文書は、「持続可能な平和を達成
    するため」、「調整され、一貫性があり、統合されたアプローチが必要である」として、
    「持続的開発の基礎」作りを支援する制度的な仕組みとして、PBC の設置を決定した。
    これは、過去に国連が効果的平和構築支援のあり方を検討し、それを踏まえ実践し
    てきた経験を活かした結果であった。
     この成果文書採択から 9 ヶ月後、2006 年 6 月 23 日、アナン国連事務総長によ
    り、平和構築委員会 (PBC) 組織委員会第一回会合が招集された。初代 PBC 議長とな
    ったアンゴラ常駐代表はこの会合を「歴史的瞬間」と評した。事務総長、総会議長、
    安保理議長、経社理議長、世銀総裁代理、IMF 代表も、国連改革の重要な成果とし
    て PBC の重要性を訴えると共に、その役割について高い期待感を表明した。しかし、
    27 外務省調査月報 2006/No. 2
    ここに至る過程は平坦な道のりではなかった。成果文書の採択を受け、PBC の詳細
    を定めた総会・安保理決議(A/RES/60/1 及び S/RES/1645)が採択されるまで 3 ヶ月、
    その決議採択から PBC の活動開始まで更に 6 ヶ月を要した。成果文書を踏まえ、「現
    地の人に裨益する PBC を必ずや発足させる」との意気込みの下に行われた交渉であ
    ったが、組織委員会の構成やメンバーの選出など具体的な問題になると関係国間の
    利害が絡んで協議は難航した。幾度にも渡る交渉の末に合意に達し、第一回会合の
    開催に至ったものの、今後の PBC の実質的活動において如何に関係国の利害を超え
    られるかが焦点の一つとなっている。
     本稿は、PBC を歴史的な文脈と国連の政治的現実の下で捉えることで、PBC の意
    義と問題点を明らかにすることを目的とする。かかる観点から、先ず PBC 発足に至
    るまでの平和構築に関する国連での議論の流れを追い、PBC が生まれた背景を探る。
    次に、PBC を立ち上げる交渉過程における議論を分析し、PBC が潜在的に抱える問
    題点を明らかにする。
    1. 平和構築委員会設立の背景 : 国連における平和構築の取
      り組みの変遷
    (1)平和構築に関する概念の変遷
    「平和の課題」
    平和構築が国連において最初に注目されたのは、1992 年、当時のブトロス・ガリ
    国連事務総長が発表した「平和の課題」であったと言われている。ここでは、平和
    構築を「紛争の再発を防ぐため平和を強化、固定化するのに役立つ構造を確認、支
    援する行動」と定義した。「平和の課題」は、紛争が始まる前の予防外交、紛争が始
    まった場合の peace-making 及び peace-keeping、そして紛争が終結した後の peace-
    building という一直線の流れを示した上、peace-making、peace-keeping が目的を達
    成した後、「こうして達成された平和を更に永続的な基盤に乗せることが出来るのは、
    根底にある経済、社会、文化及び人道問題に取り組む持続的且つ協力的な活動以外
    28 国連における平和構築の潮流
    にはない
    1)」とし、平和構築の重要性を強調している。
    2000 年に、国連平和維持活動の包括的な見直しを行ったブラヒミ報告が発出され、
    平和構築を「平和が永続的に継続すること」と位置づけている。ブラヒミ報告では、
    平和維持と平和構築は同時並行で取り組まれるべき課題であるとし、両分野が「統合」
    した形で行われる必要がある旨指摘した。この「統合」こそが、国連における平和
    構築の取り組みを考える際の主要概念である。
     また、平和構築活動の例として「元戦闘員の社会統合」、「選挙支援」、「警察再建
    等の法との支配の強化」等を挙げている。これらは、何れも平和維持活動と密接に
    関連して行われるべきものである。実際、元戦闘員の社会統合も、PKO による武装
    解除・動員解除の後に行われる活動であり、これらはひとまとめに Disarmament,
    Demobilization, and Reintegration (DDR)と呼ばれる。これは、平和構築と平和維
    持活動の密接な関連、統合の重要性を良く示すものである。
    「ハイレベル・パネル報告」
    2004 年、国連改革の議論の基盤となる「脅威・課題・変化に関する国連事務総長
    ハイレベル・パネル(以下ハイレベル・パネル)」報告が発出された。ハイレベル・
    パネル報告においても、ブラヒミ報告と同様、平和維活動と平和構築とのつながり
    が指摘されている。しかし、平和構築を従来の概念よりも拡大し、紛争発生以前の
    活動である紛争予防も含めた他
    2)、紛争が終結し平和維持活動が終了した後の復興活
    動も平和構築の視野にいれている。これにより、この報告においては、平和構築は
    1)「平和の課題」第 57 段落。
    2)A More Secure World: Our Shared Responsibility, United Nations, 2004,
    paragraphs 224 to 230.
    29 外務省調査月報 2006/No. 2
    紛争発生以前の予防活動から、紛争終結後の復興開発までを視野に入れた長期に及
    ぶ活動と捉えられている。更に、この報告は、現在の国連システムには一貫性を持
    って平和構築を担当する組織がないと指摘し、新たな政府間機関として国連本部に
    PBC の設置を提案する一方、平和構築活動が現場でも一貫性を持って実施されるこ
    とが不可欠であるとして、事務総長特別代表 (SRSG) の権限を強化する必要性も指摘
    した。
    「In Larger Freedom」
     ハイレベル・パネル報告及びミレニアム報告を受け、2005 年に国連事務総長は「In
    Larger Freedom」を発出した。その中で、平和構築を「紛争から永続的な平和への
    移行」と位置付けた。事務総長は、平和構築を一貫して扱う機関として、ハイレベル・
    パネルが提案する PBC を支持するが、PBC に早期警戒等の紛争予防的機能を与える
    ことには反対する。その結果、PBC が対象とする平和構築は、「紛争後の活動」に限
    定される
    3)。その一方、事務総長の「紛争後」の捉え方は、パネル報告に近く、紛争
    終結直後から中期的な復興に関わる幅広い時間軸を想定し、PBC は、紛争終結直後
    の復旧活動支援から、バイ・マルチの活動の調整...

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