目的
試験時には、ある程度の情報を覚え、そして思い出さなければならない。記憶には情報を覚えこむ符合化、情報を保持する貯蔵、情報を思い出す検索の3つの過程があり、試験の際に問われるのはこのうち主に検索である。論文試験をイメージすると分かりやすいかもしれないが、試験の際には手がかりをなしに、貯蔵した順番に関係なく情報を検索する必要がある。この方法で検索することを自由再生という。情報をある一定の系列で符号化すると、その順序は検索頻度である再生率に大きく影響する。なぜなら、情報の初頭部が多く記憶される初頭性効果と、情報の末尾部が多く記憶される親近性効果が含まれるためである。逆に中央部の成績はそういった効果が起こらないため、成績が悪くなる傾向がある。これらを総じて系列位置効果と呼ぶ。この効果が起こっているため、再生率を系列位置の関数としてプロットするとU字型の曲線がえられる。これを系列位置曲線と呼ぶ。(藤永ら,2001)
今回の実験では、多数の情報を順序を問わず検索する自由再生法の課題として、60個の二字熟語を4つのランダムなリストに分けた物を用いた。課題提示直後に再生を行う直後再生条件と、30秒間の挿入課題の後に再生される延滞再生条件を設定し、この2つの条件を独立変数とした。また、項目が提示される入力の順序と色々な系列位置の項目が再生される確率との関係を明らかにし、その理論的背景を検討することを従属変数とした。課題の提示順序やリスト内での明らかに意味的に関係がある場合の偶然の誤差を除くため、各学習リスト内の提示順序は毎回異なるものとし、また60語をランダムな4つのリストに分けるものとした。その他に、順序効果を相殺するためにカウンターバランスを行った。カウンターバランスとは、各条件がすべての試行順序にあたるよう配置するものであり、今回は各試行が各順序に1回だけ現れるように並べるラテン方格を用いた。
方法
目的に沿って自由再生と系列位置効果に関する実験を行った。以下、被験者、実験計画、刺激、実験手続きを説明する。
被験者
実験対象者は19歳から23歳の無作為に抽出した男女24名の学生とした。直後再生群においては男子5人女子7人の計12人、延滞再生群においては男子1人女子11人の計12人を被験者とした。被験者間の均質をはかるため大学生に限定し、静かな場所で実験を行うことを心掛けた。
実験計画
表1 提示課題のリスト A B C D 今回の実験は、自由再生課題を要因とした、1要因2水準の実験であった。第1の水準は、自由再生課題を提示した直後、検索された順に解答用紙に記述していく直後再生条件とした。第2の水準は、自由再生課題を提示した後、30秒間の挿入課題を行い、その後、直後再生条件と同様の手順で解答用紙に記述していく延滞再生条件とした。各条件で被験者が異なる被験者間変数を用いた。
刺激
漢字2文字の名詞(小川・稲村1974)から学習容易性が4.00から5.00の範囲で、平均がほぼ4.50になるように60語を選出した。そしてこれらの語をランダムに15語ずつ4つのリストに分けた。この時に、明らかに意味的な関連がある語を同一リスト可能な限りいれないようにし、また読み間違いをしないように漢字に振り仮名をつけた。漢字のリストは表1に提示するものとする。漢字のフォントサイズは36ポイントとし、振り仮名のフォントサイズは12ポイントとした。これを一つ一つ9cm×13cmの白色の台紙 の中央に貼った。これを提示課題とする。図1はその提示課題の一例である。このほか、挿
目的
試験時には、ある程度の情報を覚え、そして思い出さなければならない。記憶には情報を覚えこむ符合化、情報を保持する貯蔵、情報を思い出す検索の3つの過程があり、試験の際に問われるのはこのうち主に検索である。論文試験をイメージすると分かりやすいかもしれないが、試験の際には手がかりをなしに、貯蔵した順番に関係なく情報を検索する必要がある。この方法で検索することを自由再生という。情報をある一定の系列で符号化すると、その順序は検索頻度である再生率に大きく影響する。なぜなら、情報の初頭部が多く記憶される初頭性効果と、情報の末尾部が多く記憶される親近性効果が含まれるためである。逆に中央部の成績はそういった効果が起こらないため、成績が悪くなる傾向がある。これらを総じて系列位置効果と呼ぶ。この効果が起こっているため、再生率を系列位置の関数としてプロットするとU字型の曲線がえられる。これを系列位置曲線と呼ぶ。(藤永ら,2001)
今回の実験では、多数の情報を順序を問わず検索する自由再生法の課題として、60個の二字熟語を4つのランダムなリストに分けた物を用いた。課題提示直後に再生を行う直後再生条件と、...