「灰の水曜日」について、あるテーマを選んで論述せよ。内容にふさわしいタイトルを付すこと。
「灰の水曜日の背後にある人生観と宗教観」
一般にエリオットの中期の詩として挙げられる『灰の水曜日』は、同じく中期に書かれた『うつろなる人々』(1925)や『妖精詩集』(1927-30)とは、その主題や技法、思考内容の違いがはっきりと見てとれる。それは英国帰化と英国教への改宗というエリオット自身の大きな変化があったためであった。彼は幼い頃から神に対する信仰心が厚く、自身の求める「絶対的な、神秘的な神」の像に魅せられ続けてきた。幼時から祖父の立てた救世主の教会などではぐくまれたユニテリアンの宗教を離れ、ついにカトリック的要素を大切に保持している英国教会に帰依したのは、一つにピューリタニズムが掲げていた現世的な繁栄という宗教の実利的な面の強調に飽き足らず、神が創りたもうたこの世界は、人間の認識に及ばざる力によって動かされていることを教義の深奥にひめている伝統的なキリスト教を正統と認めたからであろう。『灰の水曜日』ではそうして明らかになってきた宗教的感覚が、大きな重要性を発揮していることがわかる。
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