建物収去土地明渡請求事件
(最判昭和41年1月27日 民集20-1-136)
Ⅰ.事実の概要
X(原告・被控訴人・被上告人)は昭和26年3月、Y(被告・控訴人・上告人)に対して自己の所有する宅地の一部である土地百四坪を賃貸した。Yはその賃借地上の一部十四坪(以下、甲土地)に建坪七坪の事務所を所有し、昭和34年1月から同年8月まで、Xに無断でこの建物と賃借地の一部十四坪の賃借権を訴外Aに譲渡した。また、Yは本件土地の一部四十三坪二合一勺(以下、乙土地)を、昭和31年5月に訴外Bに転貸し、Aはこの土地の上に建坪約十三坪の未登記の建物を所有していた。
Xは甲土地部分の上の建物が昭和34年10月20日に落札されたことから、上記のような事実を知るに至り、昭和35年7月20日にYに対して、YのAに対する土地の賃借権の無断譲渡を理由に、本件土地の賃貸借契約を解除するとの意思を表示した。
Xは、YのAに対する賃借権の無断譲渡に基づく賃貸借契約の解除を理由として、Yに対して、Y所有の建物を収去してYの使用している部分および甲土地部分の土地の明け渡しを求めた。また、YのBに対する無断転貸を理由に本件の訴状中で賃貸借契約の解除の意思表示をしたことを主張した。Yは、甲土地部分の賃借権およびその上に存在する建物を訴外Aに譲渡したことはなく、甲土地上の建物はY所有のものであるのに、Aが勝手に所有権移転登記をして抵当権を設定したものであると主張した。また、YのBへの転貸については、事前にXの承諾を得ていたと主張した。
第一審(東京地判昭和38・12・26)では甲土地上にある建物については、「Y所有のものを訴外Aに事務所として使用させたところ、AがYに無断でA名義の登記をしたものと認められる。従ってYがXに無断で借地権を譲渡したものとは認定できない」としてXの主張を退けたが、乙土地については「X名義の右転貸借についての承諾書(乙第二号証)は真正に成立したものとは認め難く、従って右書面の存在により、転貸借についてXの同意があったものとは認め難い」としてXの請求を認めた。
第二審(東京高判昭和39・11・28)では、乙土地について「Yが原審で提出援用した証拠のほか、当審において更に援用した証拠を参酌しても以上の認定並に原判決理由の説示を動かすに足りない」として第一審と同様の理由をもって、Yの控訴を棄却した。なお、第一審および第二審では争点はもっぱら転貸の承諾の有無であり、前記承諾書の真否が訴訟活動の中心となった。
Yは、「無断転貸による解除権の発生は借地人と土地賃貸人の信頼関係の信義則違反の一の例示であること最高裁判所の判旨の確立するところである。…右無断転貸が他の何らかの事由により真実の信義則違反となるや否やにつき原審としては当然に極めなければならないことは民法第1条第2項の趣旨から明瞭にうかがわれる、況んや借地法改正案に於て、無断転貸乃至借地権譲渡は契約解除の事由とならない旨立法されている現状から鑑み、原審は民法612条の字句に拘泥し、民訴法第149条の釈明権の不行使の責がある。依って審理不尽、理由不備を免れない。」として上告した。
Ⅱ.最高裁判決判旨
主文:本件上告を棄却する。
理由:「土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸した場合においても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法第612条2項による解除権を行使し得ないのであつて、そのことは、所論のとおりである。しかしながら、かかる特段の
建物収去土地明渡請求事件
(最判昭和41年1月27日 民集20-1-136)
Ⅰ.事実の概要
X(原告・被控訴人・被上告人)は昭和26年3月、Y(被告・控訴人・上告人)に対して自己の所有する宅地の一部である土地百四坪を賃貸した。Yはその賃借地上の一部十四坪(以下、甲土地)に建坪七坪の事務所を所有し、昭和34年1月から同年8月まで、Xに無断でこの建物と賃借地の一部十四坪の賃借権を訴外Aに譲渡した。また、Yは本件土地の一部四十三坪二合一勺(以下、乙土地)を、昭和31年5月に訴外Bに転貸し、Aはこの土地の上に建坪約十三坪の未登記の建物を所有していた。
Xは甲土地部分の上の建物が昭和34年10月20日に落札されたことから、上記のような事実を知るに至り、昭和35年7月20日にYに対して、YのAに対する土地の賃借権の無断譲渡を理由に、本件土地の賃貸借契約を解除するとの意思を表示した。
Xは、YのAに対する賃借権の無断譲渡に基づく賃貸借契約の解除を理由として、Yに対して、Y所有の建物を収去してYの使用している部分および甲土地部分の土地の明け渡しを求めた。また、YのBに対する無断転貸を理由に本件...