安部公房研究―「S・カルマ氏の犯罪」の既成の社会―
目次
序章――――――――――――――――――――――――――――――――――2
第一章 日常の物語 ―「審判」の影響――――――――――――――――――3
第一節 「変身」との比較 3
第二節 「審判」との比較 6
第三節 「不思議の国のアリス」との比較 7
第四節 無名画家のアイデンティティ 9
第二章 それまでの作品との関わり―「デンドロカカリヤ」を中心として―――14
第一節 異端者の葛藤―「デンドロカカリヤ」との比較 14
第二節 マルキシズムの超越 16
第三章 裁判~世界の果―――――――――――――――――――――――――17
第一節 裁判に込められた現代社会批判 17
第二節 「死んだ有機物から生きている無機物へ!」 24
第三節 主体性の芽生え―平和について 28
第四節 意外な協力者 31
第五節 世界の果への誘い 33
第六節 「掟の門」とは何か 35
第四章 壁との同化―――――――――――――――――――――――――――37
第一節 壁との対話 37
第二節 Y子の二面性 40
第三節 壁になるということ 42
終章―まとめ――――――――――――――――――――――――――――――45
凡例
1.引用文は2字下げて表記。
2.原文のままの表記であるという意味で、「ママ」というルビをつけている。
序章 テーマ設定とテキストについて
ある雑誌で「身の回りのものが反乱を起こす話」と紹介されていたのが「S・カルマ氏の犯罪」を読んだきっかけだった。始めて読んだときは、ただのSF小説だという感想しか持たなかったが、その直後に読んだ、フランツ・カフカの「審判」に、S・カルマとヨオゼフ・Kという主人公たちの名前や、目覚める場面からの書き出し、裁判の場面など、多くの共通点があることに気付いた。これらの共通点は、ただの偶然なのか、それとも意図的に作られたものなのか、という疑問から、「S・カルマ氏の犯罪」を研究テーマにすることにした。
安部公房やその作品に関する研究は、これまで多くなされてきた。それらのおよそ半分は、安部の思想をテーマとし、残りの半分は作品に関するテーマを設定している。さらに、その取り上げられている作品の内訳を見てみると、「砂の女」と「壁」がそれぞれ4分の1ずつを占めている。
「壁」、その中でも特に「S・カルマ氏の犯罪」をテーマとした論文には、カフカとの比較を中心に研究したものが多い。だが、カフカ作品との比較に終始しているものがほとんどで、作品に安部のどんな主張が込められていたのかについて、ほとんど考察がなされていないのが現状である。本論では、影響を受けていると思われるカフカ作品との比較、安部の「S・カルマ氏の犯罪」以前の作品である「デンドロカカリヤ」との比較、テキスト自体の考察という三点から、「S・カルマ氏の犯罪」に込められた安部の主張を明らかにしていく。
テキストについては、『安部公房全集002 1948.06―1951.05』(新潮社 1997年)に収録されているものを使用する。安部の全集は、この『安部公房全集』と、同じく新潮社の『安部公房全作品』の二つが出版されている。『全集』を使用する一つ目の理由は、小説だけでなく、講演や手紙、対談など、当時の安部の考え方に近づけるテキストが数多く載っていること。二つ目は、それらがすべて年代順に並べられており、しかも初版のテキストを採用しているからである。
「S・カルマ氏の犯罪」は、『壁』という作品集に収められている。『壁』は他
安部公房研究―「S・カルマ氏の犯罪」の既成の社会―
目次
序章――――――――――――――――――――――――――――――――――2
第一章 日常の物語 ―「審判」の影響――――――――――――――――――3
第一節 「変身」との比較 3
第二節 「審判」との比較 6
第三節 「不思議の国のアリス」との比較 7
第四節 無名画家のアイデンティティ 9
第二章 それまでの作品との関わり―「デンドロカカリヤ」を中心として―――14
第一節 異端者の葛藤―「デンドロカカリヤ」との比較 14
第二節 マルキシズムの超越 16
第三章 裁判~世界の果―――――――――――――――――――――――――17
第一節 裁判に込められた現代社会批判 17
第二節 「死んだ有機物から生きている無機物へ!」 24
第三節 主体性の芽生え―平和について 28
第四節 意外な協力者 31
第五節 世界の果への誘い 33
第六節 「掟の門」とは何か 35
第四章 壁との同化―――――――――――――――――――――――――――37
第一節 壁との対話 37
第二節 Y子の二面性 40
第三節 壁になるということ ...