「社会的責任投資(SRI)
−株式投資による企業の社会性評価―」
1.SRI:企業評価に社会軸を取り入れた投資
企業の社会的責任を問う声は、今に始まったことではない。これまでも、市民活動や住民運動による企業へのプレッシャー、研究者の企業論などで社会的な責任を問う場面はいろいろあった。
このように直接企業に働きかける活動に対して、欧米では株式投資をする際の企業評価に、収益性や成長性だけでなく社会面も取り込んで総合的に評価して投資対象を選ぼうという動きがある。これは社会的責任投資(SRI: Socially Responsible Investment)と呼ばれ、最近特にヨーロッパで広がっている。
環境コンサルタントとして企業経営に関わる中で欧米の動向に目を向けてみると、環境だけでなく「持続可能な発展(Sustainable Development)」のコンセプトのもとに、企業にとっても各種の社会的な責任がテーマになっていることに私は注目している。 日本はまだそこまでいっていないからそんなこと今すぐ考えなくてもいいだろう、と言いたい人もいるだろう。しかしグローバル化する資本市場では、海外の投資家がポートフォリオ設計に日本企業も含めることは通常のことだ。そしてSRIの拡大に従って、日本企業の社会性を評価する動きが外部から強まってきているのだ。
弊社ではヨーロッパでも特にSRIの発展が目覚しいイギリスのSRI調査機関から、日本企業の社会情報を収集するプロジェクトを昨年より始めている。そして日本企業がそれと気づかないうちに、海外投資家から評価されている実態を目にしている。
このSRI市場の波は、いずれ日本にも波及するものと感じており、私は日本での企業の社会性調査、SRIの設計も重要なテーマととらえている。
2.社会性に配慮する企業は業績も優れる
企業が社会性の配慮を怠れば、業績が悪化し株価が下落するという事例はあちこちで見られる。こうした「事件」が起こるのはまれで、社会性・倫理性の対応を常日頃行っていればすぐに企業の業績がよくなるというものではないが、対応していないと長期的にみていつかボロがでる確立が高くなる。
株式投資はリターンは大きくまたリスクも大きいと考えがちだが、長い目で資産を運用しようというときは、目先の上がり下がりにとらわれず、10年20年先にも着実に存続する企業に投資していくという目が必要だ。そんな時には社会性という考えがとても重要になる。投資家がそこに目を向け、投資という形を通して資本市場から良い企業をサポートしていくことがSRIなのだ。
3.社会運動としての意味ももつSRI
SRIのルーツは、1920年代のアメリカにある。キリスト教のある宗派が資産を運用するにあたって、「キリスト教の倫理に反するアルコール、タバコ、ギャンブルに関係する企業には投資しない」としたことに始まる。社会情勢の変化に伴ってSRIの基準も変わり、80年代には南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)への反対活動として、南アでの事業活動によって利益を上げている企業への投資を控えるといった選択もされた。
株式への投資は個人の考えに基づくものだが、その個人が多数になることで、社会的な意味を持ってくる。こうしてSRIは社会運動の一つの行動として、アメリカを中心にじわじわ広がってきた。
近年のヨーロッパでは、雇用問題や環境問題が大きな社会問題として取り上げられている。90年代後半から、こうした問題について企業にも責任を問う方策として、SRIが広がっているのだ。
4.日本では環境への取り組み評価からスタート
日本でのSRIの一例として、環境に配慮した企業に投資するという投資信託商品が、3年前から販売されている。エコファンドと名づけられたこの商品は、各社の財務面での評価に加え、環境に対する取り組みやその成果を評価し、銘柄を選定している。現在7社の投信会社が、エコファンドを設定している。
エコファンドの導入によって、経営者の間に環境への取り組みが経営全体の評価の一つの軸になるという認識が広がった。株価は企業の収益性や成長性をあらわす指標と思われていたが、そこに「財務以外の事業活動」が加わった日本で初めての事例だった。
日本では、環境以外の「社会性の指標」についての関心がまだ小さい。エコファンドに続く社会性を考慮した商品として「朝日ライフSRI社会貢献ファンド」が登場したが、これ以降SRI商品は表れていない。
一方で企業の社会的な側面に関心をもつ個人や消費者も多くなっている。こうした個人の関心が投資の行動につながり、それによって「長期的に安心、安定した経営を行う企業」への期待が高まってきている。ここのところ日本の証券市場の市況がかなり厳しくなっており、株式投資への関心が低くなっているが、長い目で見れば日本でもSRIが広がる土壌は十分あるだろう。
SRIは、株式市況の暴騰に引っ張られた一過性、短期的な投資ブームで終わるような性質のものではない。これからは社会性・倫理性の面で「いい会社」を選ぶ目をもち、その会社をじっくり支援していくという姿勢でのぞみたい。
情報提供先 -> http://job.toyokeizai.co.jp/new_standard/02.html