企業財務評価論

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    企業財務評価論
    提供機関 : 早稲田大学政治経済学部
    提供機関 URL : http://www.fujimori.cache.waseda.ac.jp/seminar/kenjiro-t.html
    序論
     この論文は「株主重視経営」における企業の収益性、効率を示す指標についてまとめたものである。ここで言う株主重視経営とはどのようなものであるかは1章の始めに説明する。
     経営指標というものは、既に数多く存在している。売上高経常利益率やROEといったものである。しかし、私が思うに既存の指標は経営指標としては不完全な代物である。個別の批判はここではしないが、共通して言えることは、経営指標としての役割を果たさないことである。
     私は経営指標には二つの目的があると考える。それは、指標の改善が経営の改善につながるインセンティブを与えることと、経営の実態を正確に表わすことである。指標が良くなったとしても、それが実際に経営改善に結びついていなければその指標は詐欺であるし、企業の真実を写し出さない、現実味を帯びていない指標は嘘つきである。
     では、株主重視経営に必要とされるものは何であるか。私は、大きく次の四点にまとめた。
    1・収益力(利益が出なければ話にならない)
    2・安全性(倒産したら全てがパーである)
    3・長期永続性(現在の株主の利益しか考えない企業は遅からず倒産する)
    4・効率(投資された資本を無駄に使ってはいけない)
    ということである。短気な人間が多いお国柄、アメリカは3の長期永続性を軽んじる傾向がある。といっても逆に日本は3を重視し過ぎ、つぶしてもいい銀行やゼネコンをつぶせずにいる。要はこの4つのバランスである。全て兼ね備えることができたら言うことはないが、一つや二つだけ突出していても意味が無い。
    さて、これまで私が調べてきた中で最も優れていた指標はEVAという指標であった。1年ほど前にこの指標を知ったが、非常によくできていると感激した。しかし、EVAも私には完璧ではなかった。アメリカ人はこの指標に満足できるかもしれないが、たいていの日本人にはおそらく無理だろう。
    EVAは世界中で使用され、その効果があることも実証済みである。しかし、アメリカの作ったものだからといって、それがグローバルスタンダードになりうるとは限らない。日本的なものがグローバルスタンダードになれないわけがない。アメリカ的なものより日本的なものがうまくいった時もあったのだ。アメリカ的なものを全て批判するわけではないが、簡単に迎合することわけにはいかない。今までのものが通用しないならば、新しいものをつくりだせばいいではないか。
    この論文のEVAと私の指標の比較を通じて、同じ株主重視経営の指標であっても、考え方、目的によってどのように異なるのかを知っていただきたい。そして、企業の評価には様々な視点があることを理解したうえで、就職、投資、ビジネスなど、企業と付き合う様々な機会において、私の指標があなたの判断材料として一抹のお役に立てることができれば幸いである。
    EVAについて
    1・EVAの基本
     ここでは、EVA作成者の立場からEVAとはどのようなものかを解説する。
    EVAとは −株主重視経営の意義―
     EVAは Economic Value Added の略であり、米国のコンサルティング会社、スターンスチュワート社が考案した指標である。EVAがこれまでに重視されてきた売上高経常利益率などと大きく異なる点は、株主に帰属する資本にも負債と同じように使用料、コストがかかると認識する点である。E

    資料の原本内容

    企業財務評価論
    提供機関 : 早稲田大学政治経済学部
    提供機関 URL : http://www.fujimori.cache.waseda.ac.jp/seminar/kenjiro-t.html
    序論
     この論文は「株主重視経営」における企業の収益性、効率を示す指標についてまとめたものである。ここで言う株主重視経営とはどのようなものであるかは1章の始めに説明する。
     経営指標というものは、既に数多く存在している。売上高経常利益率やROEといったものである。しかし、私が思うに既存の指標は経営指標としては不完全な代物である。個別の批判はここではしないが、共通して言えることは、経営指標としての役割を果たさないことである。
     私は経営指標には二つの目的があると考える。それは、指標の改善が経営の改善につながるインセンティブを与えることと、経営の実態を正確に表わすことである。指標が良くなったとしても、それが実際に経営改善に結びついていなければその指標は詐欺であるし、企業の真実を写し出さない、現実味を帯びていない指標は嘘つきである。
     では、株主重視経営に必要とされるものは何であるか。私は、大きく次の四点にまとめた。
    1・収益力(利益が出なければ話にならない)
    2・安全性(倒産したら全てがパーである)
    3・長期永続性(現在の株主の利益しか考えない企業は遅からず倒産する)
    4・効率(投資された資本を無駄に使ってはいけない)
    ということである。短気な人間が多いお国柄、アメリカは3の長期永続性を軽んじる傾向がある。といっても逆に日本は3を重視し過ぎ、つぶしてもいい銀行やゼネコンをつぶせずにいる。要はこの4つのバランスである。全て兼ね備えることができたら言うことはないが、一つや二つだけ突出していても意味が無い。
    さて、これまで私が調べてきた中で最も優れていた指標はEVAという指標であった。1年ほど前にこの指標を知ったが、非常によくできていると感激した。しかし、EVAも私には完璧ではなかった。アメリカ人はこの指標に満足できるかもしれないが、たいていの日本人にはおそらく無理だろう。
    EVAは世界中で使用され、その効果があることも実証済みである。しかし、アメリカの作ったものだからといって、それがグローバルスタンダードになりうるとは限らない。日本的なものがグローバルスタンダードになれないわけがない。アメリカ的なものより日本的なものがうまくいった時もあったのだ。アメリカ的なものを全て批判するわけではないが、簡単に迎合することわけにはいかない。今までのものが通用しないならば、新しいものをつくりだせばいいではないか。
    この論文のEVAと私の指標の比較を通じて、同じ株主重視経営の指標であっても、考え方、目的によってどのように異なるのかを知っていただきたい。そして、企業の評価には様々な視点があることを理解したうえで、就職、投資、ビジネスなど、企業と付き合う様々な機会において、私の指標があなたの判断材料として一抹のお役に立てることができれば幸いである。
    EVAについて
    1・EVAの基本
     ここでは、EVA作成者の立場からEVAとはどのようなものかを解説する。
    EVAとは −株主重視経営の意義―
     EVAは Economic Value Added の略であり、米国のコンサルティング会社、スターンスチュワート社が考案した指標である。EVAがこれまでに重視されてきた売上高経常利益率などと大きく異なる点は、株主に帰属する資本にも負債と同じように使用料、コストがかかると認識する点である。EVAは負債へのリターンとして利息が支払われるのと同様に、資本の提供者である株主に対しリターンをあげることを要求する。EVAは「株主重視経営」を目指す指標であるからだ。
     スターンスチュワート社は、企業の第一義的な役割は、事業活動を通じて様々なステークホルダーに対して価値をつくり出すことであると考えている。企業はステークホルダーから「ヒト・モノ・カネ」といった資源の提供を受け、その資源を元に事業活動を行う。だが、企業は投入された資源よりも多くの産出をしなければ、ステークホルダーによる投入は無駄になってしまう。つまり、ステークホルダーに対して価値をつくり出すということは投入を上回る産出をしなければならないということである。
     そして、スターンスチュワート社は、全ステークホルダーに対し価値を創造することができたかどうかを判断する場合には株主に対する価値創造の状況を見ればいいと説明する。
     企業は顧客に対し魅力的な製品やサービスを提供し、その結果として得た収益を使って、従業員に給料を支払い、取引業者に適切な対価を支払い、銀行に元利の返済を行い、さらには政府に税金を納め、残ったものを株主に分配する。ここで重要なことは、株主はこの価値の分配を享受する序列において、ステークホルダーの最後に位置付けられており、他のステークホルダーが取得した後に残る価値、つまり残余分価値の分配を受ける立場にあるという点である。
     株主はこのように残余価値の分配を受ける立場にあることから、株主に対して十分な価値が分配される状況においては、そこに至るすべてのステークホルダーに対してすでに十分な価値が提供されているということが言える。株主が十分な価値を受け取ることができる状況においては、顧客には製品やサービスを提供することによって満足を提供し、従業員には十分な給料を支払い、取引業者に対しては部品などの代金を支払い、銀行には利息を支払い、政府には税金を納めているはずなのである。
     株主に対して創造された価値を重視するという意味で「株主重視経営」という言葉が使用される場合があるが、これは株主の利害だけを重視するという意味ではない。実は、株主に対して生み出された価値に注目することによって、すべてのステークホルダーに対して十分な価値が生み出されているのかどうかを見ることが目的なのである。(以上抜粋)
     以上がスターンスチュワート社の説明する「株主重視経営」の意義である。
    会計利益と経済的利益
     前述のように、EVAは資本に係わるコストを認識する。これはEVAが「経済的利益」と言われるものの一種であり、経常利益のような「会計利益」とは異なるからである。
    会計利益とは、商法や企業会計原則などの会計ルールに則って算出される利益であり、普通、単に利益と言ったときには会計利益のことを指す。会計利益を式で表すと次のようになる。
    会計利益=総収入−会計上の費用(原材料費、経費、人件費、税金など)
    一方、経済的利益とは、会計ルールではなく、経済的な見地から捉えた利益である。経済的な見地から捉えるということの意味は、費用を認識する際に、収益を生み出すために利用したすべてのもの(原材料、従業員、資産など)に対する実質的な対価を考慮するということである。具体的には、EVAを計算する際は会計利益では認識されない、資本に係わるコストも費用として認識し、収益から差し引くことで経済的利益であるEVAを算出している。経済的利益は次の式で計算される。
    経済的利益=総収入−会計上の費用−資本に係わる費用
     EVAは経済的利益なので、実際に企業が儲けた利益とは異なり、概念上の利益であるということが重要である。
    2・EVAの求め方
     ここではEVAの算出法を解説していくが、これをまともに書くと一冊の本ぐらいの量になってしまうので、可能なかぎり最小限の、ARORIとの比較に必要と思われる程度に簡潔にまとめた。EVAの詳細については参考文献を読んでいただきたい。
    EVA計算式
    EVAを最も単純な式で表すと次のようになる。
    EVA=NOPAT−資本費用
    NOPATとは
     NOPATはNet Operating Profit After Tax の略で、税引後事業利益のことである。売上高から事業活動に係わる費用や税金を差し引いたものなので、(税引後)営業利益に近いものである。実際にはさまざまな調整を加えるので同じ数字にはならないが、大雑把に考えて営業利益だと考えてかまわないであろう。
    資本費用とは
     資本費用はEVA計算のなかで最も重要で難解であり、EVAの核ともいえる部分である。簡単に言えば、企業への出資者、負債の出し手である銀行や債権保有者と、資本金の出し手である株主へ報いるべきリターンであり、負債と株主資本の使用料である。資本費用を計算式で表すと次のようになる。
    資本費用=投下資本×資本コスト
    投下資本とは
     投下資本とは企業に投下された資本(負債と株主資本)の金額を反映するものである。企業は負債や資本金として投資家から資本を調達し、それを資産として使用し、事業を行う。よって、投下資本は企業に投下されている資本の金額をあらわすと同時に、企業が事業活動において使用している資産の金額でもある。投下資本を計算式で表すと次のようになる。
       投下資本=有利子負債+株主資本
          =流動資産−無利子流動負債+有形固定資産−減価償却費+その他資産
    ここで無利子流動負債と減価償却費を差し引く理由は、NOPATとして認識された費用を資本費用として二重計上しないようにするためである。無利子流動負債の例として買掛金があげられるが、買掛金が計上される際には現金の支払いを猶予してもらうことに対応し、代金が現金で支払うよりも高めに設定されている。したがって、買掛金に係わる費用は原材料に含まれているということになるのである。
    資本コストとは
     資本コストは、投下資本に対し、どれだけの率を投資家にリターンするべきかを...

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