収益の認識に係る実現主義
1.実現の要件
実現とは、(a)財貨または用役(役務、商品等)が外部者に移転し、かつ、(b)これと引き換えに現金または現金等価物(売掛金、受取手形等の貨幣性資産)を取得するという、企業と外部者との取引が完結した時点のことをいう。
条件(a)は、所有権の移転を意味しており、その時点の把握は明確に識別可能である。また条件(b)は、貨幣的測定の公準に従った収益の客観的な測定が促進される。
この「実現」の時点で収益を認識するのが、収益の認識基準としての実現主義である。具体例としては、商品売買における販売基準や建設業会計における工事完成基準がある。
2.理論的根拠
収益の認識を実現主義によるならば、条件(a)(b)をともに充たした時点で収益を認識するため、収益計上の恒久性(確実性・確定性)、利益の処分可能性が確保される。
(1)客観性(検証可能性)
販売取引の完結という事実は、検証可能な取引事実の実在を裏づける客観的な証拠であり、その取引事実に基づいて収益を認識できる。このような証拠に基づいて収益を認識することにより、個人的または主観的な判断や恣意性が入り込む余地が少なくなる。
(2)恒久性(確実性・確定性)
実現主義によれば、販売取引の完結によって、取引当事者間において決定され承認された取引金額が確定しているので、収益の金額的大きさを確実なものとして測定することができる。条件(b)を充たすことで、取引の後で、取引が一般に取り消されることのない恒久性が確保される。
(3)利益処分可能性
販売取引の事実が発生する以前において認識された収益は、不確実な販売可能性に基づいた予想利益であり、現金や現金等価物といった貨幣性資産の裏づけを欠いている。それに対し実現主義による収益の認識は、条件(a)と条件(a)の対価としての条件(b)をともに充たした時点で収益を認識するため、資金的裏づけが確保される。
(4)保守主義性(財務の健全性)
販売以前に予想利益を見積もることは、未実現の利益を計上することとなり、「費用・損失の早期計上を奨励し、収益の見積計上は避けるべし」という保守主義の原則に反し、企業の財務的健全性が確保されない。
本来、費用・収益は、生産活動や流通活動を通じて徐々に発生するものと考えられる。したがって費用・収益ともに発生の事実に基づいて認識されるべきであるとも考えられる。この考え方によれば、費用も収益も認識基準として発生主義をとることになる。費用についての発生の事実は、現金の支出や購買取引契約の締結などによることでかなり客観的かつ合理的に、そして容易に把握可能であり、費用の認識基準として発生主義を採用することは、適正な期間損益計算を目的としている企業会計の期間収益との対応や、費用や損失を早期に計上しようという保守主義の原則にもかなう。
一方、収益を発生の事実に基づいて認識しようとした場合、不確実な販売可能性に基づいた主観的な収益の認識がなされるだけでなく、そもそも生産活動や流通活動によって徐々に発生していると考えられる収益をその都度把握しようとすること自体、一般に実行不可能である。またこのような主観的な見積収益を認識することは、収益の早期計上につながり保守主義の原則にかなわない会計処理である。
このような収益の認識基準として発生主義を適用する場合の難点を回避できる認識基準、それが実現主義である。しかしこの実現主義にも難点がある。本来、収益は徐々に発生しているはずのものであるが、実現主義を適
収益の認識に係る実現主義
1.実現の要件
実現とは、(a)財貨または用役(役務、商品等)が外部者に移転し、かつ、(b)これと引き換えに現金または現金等価物(売掛金、受取手形等の貨幣性資産)を取得するという、企業と外部者との取引が完結した時点のことをいう。
条件(a)は、所有権の移転を意味しており、その時点の把握は明確に識別可能である。また条件(b)は、貨幣的測定の公準に従った収益の客観的な測定が促進される。
この「実現」の時点で収益を認識するのが、収益の認識基準としての実現主義である。具体例としては、商品売買における販売基準や建設業会計における工事完成基準がある。
2.理論的根拠
収益の認識を実現主義によるならば、条件(a)(b)をともに充たした時点で収益を認識するため、収益計上の恒久性(確実性・確定性)、利益の処分可能性が確保される。
(1)客観性(検証可能性)
販売取引の完結という事実は、検証可能な取引事実の実在を裏づける客観的な証拠であり、その取引事実に基づいて収益を認識できる。このような証拠に基づいて収益を認識することにより、個人的または主観的な判断や恣意性...