性差別と性の役割について、あなたなりに論じなさい。
「男は仕事、女は家庭」
労働は人間にとって不可欠の活動である。人類は、その誕生以来、生産活動をはじめとするさまざまな労働をおこなうことで、自分たちの生活を支えてきた。といっても、労働は、単に生活を維持するためだけに営まれるわけではない。人間は労働を通じて、他者との社会関係を生みだすとともに、自分自身を表現し、新たなる自分の可能性を求めつづけてきたのである。つまり、労働は、人間は生存するためだけのものではなく、人間にとって自己実現の一つの重要な場なのである。このように重要な意味をもつ「労働」に関して、性に関わりなく、すべての人に平等な機会と待遇を保障することは、社会の公正かつ健全な発展の基礎といえよう。
ところが、ジェンダーという観点から労働について考察するとき、一つの大きな問題が浮かび上がってくる。現代社会においては、「男は仕事、女は家庭」というジェンダーによる労働の分業がまだまだ根強く残っていることである。とくに、女性たちは、家事・育児・介護といった人間の生活にとって必須の労働をその肩に負わされる一方、社会的な労働の場においては十分に自分たちの能力を発揮できない状況がつくられてきた。
他方、男性たちも、社会的な労働の場において、「仕事人間」としての役割にしばられることで、家庭生活や地域生活などでの活動の場を見失ってきた。その結果、男性たちは、生活の面での十分な能力を身につけることができず、また、家族や地域活動でのコミュニケーションの場を奪われ、多面的な人間としての可能性を狭めてきたともいえる。
現在、国際的にも重要な課題となっている男女共同参画社会の実現のためには、何よりもまず、このジェンダーによる分業の仕組みを組みかえる必要がある。
「世界の女性労働」
日本社会のみならず世界的にみても、女性と労働の関係は大差なく女性に差別的である。国連の一組織であるILOは、一九九四年に創立七五周年を迎えたが、ILO女性労働問題特別顧問マリア・アンジェリカ・ドウッチは、「世界の女性とILO」と題する講演のなかで、つぎのようにいっている。「二十世紀に入り、女性労働者は世界のあるゆるところで増加しており八億二八〇〇万人である。これは一五歳以上の女性人口の四一%に達する。女性はまぎれもなく、働きたいという意志と働く能力を持つようになった。しかし、女性と男性の間の機会均等と均等の待遇は、まだまだ達成されておれず、不均等のままである」と。
女性がたずさわっている仕事の特徴をみると、つぎのようにいえる。
①農業や家事労働も含めて、女性の労働の多くは賃金として評価・換算されないものが多い。②男女で職種がわかれていて、女性の働いている職場は、賃金も必要とされる技術も低いサービス産業や製造業が多い。③男女の賃金格差が大きく、女性の賃金は男性の五〇~八〇%で、改善はあまりされていない。④女性はパートタイム労働が多く、働く女性の六五~九〇%がパートタイマーである。パートタイマーだけではなく、臨時。派遣や店を出して小売り、道端でものを売るなどの仕事が多く、男性に比べると収入の低い周辺労働が多い。これらは労働法規の保護の外におかれていて、労働協約や団結権・交渉権、社会保障が不十分である。ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの女性たちはインフォーマル・セクターで多く働いている。⑤女性はどこの地域でも、第一次的には主婦と母親で、経済活動に関わっていても二次的なものととらえられがちである。しかし、女性が一家の稼ぎを担っている世
性差別と性の役割について、あなたなりに論じなさい。
「男は仕事、女は家庭」
労働は人間にとって不可欠の活動である。人類は、その誕生以来、生産活動をはじめとするさまざまな労働をおこなうことで、自分たちの生活を支えてきた。といっても、労働は、単に生活を維持するためだけに営まれるわけではない。人間は労働を通じて、他者との社会関係を生みだすとともに、自分自身を表現し、新たなる自分の可能性を求めつづけてきたのである。つまり、労働は、人間は生存するためだけのものではなく、人間にとって自己実現の一つの重要な場なのである。このように重要な意味をもつ「労働」に関して、性に関わりなく、すべての人に平等な機会と待遇を保障することは、社会の公正かつ健全な発展の基礎といえよう。
ところが、ジェンダーという観点から労働について考察するとき、一つの大きな問題が浮かび上がってくる。現代社会においては、「男は仕事、女は家庭」というジェンダーによる労働の分業がまだまだ根強く残っていることである。とくに、女性たちは、家事・育児・介護といった人間の生活にとって必須の労働をその肩に負わされる一方、社会的な労働の場において...