2-10遷移確率

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    遷移確率
    光電効果は光の粒子説の証拠とはならない?
    時間変化を含む摂動論
     今回は、ポテンシャルが時間的に変化する場合についても摂動論を使って解いてみよう。 これは単なる練習問題ではなくて、変動する電場の中に原子を置いたときに何が起こるかを知るためのヒントになる。
     変動する電場と言えば、電磁波はまさにそのような現象であるから、これは電磁波が原子に当たった時に起きる事を表しているとも言えるだろう。 まずはポテンシャルの形を具体的に決めないままで、論理の流れをざっと見てみることにしよう。
     やり方の基本思想は今までと変わらない。 まず次のような方程式については厳密な解が得られているものとする。
     いきなり「時間に依存するシュレーディンガー方程式」が登場して身構えてしまうかも知れないが、別に大したことはない。 ちょっと観察してみよう。 この式で使われているポテンシャル V(x) は時間に依存していない。 前に原子の構造を変数分離で解いたのを思い出してもらえばいい。 各エネルギー準位 En に属する解を n(x) として得たのだった。 そしてその時間変化まで知りたければ、その求めた解の後に
    のように位相が変化する振動部分を付ければいいのだった。 これは上の方程式の解になっている。 今回はこの方程式を少し変化させたら、この解がどう変化するかを知ろうというのである。
     新しく求めたい解は、すでに求まっている解が完全系であることから、
         (1)
    という形で展開できるに違いない。 この係数 cn は以前の手続きでは定数だとしていたが、今回は時間の関数になっているとする。
     前に摂動論を使った時とは説明の始め方が少し違っていると気付いたかも知れない。 前はまず n と En をそれぞれ λ のべき級数で表して方程式に代入し、 λ が同じ次数のものを集めて、幾つもの関係式を導くところから始めたのだった。 しかし今回はその作業は後回しになる。 「時間に依存する方程式」にはエネルギー E が含まれないため、べき級数で表すのは n だけでいい。 それで計算の手間は前よりずっと簡単になる。 前は得られた多数の関係式の形に合わせて一つ一つ次数を上げて解いて行ったのだが、今回はある程度一気に手続きが進められるのである。
     時間変化を考慮に入れた方が難しくなるイメージがあるのに、教科書のこの部分の説明がやたら少ないのは単にそういう事情である。 不親切で手抜きがされているのではないかという心配は要らない。 さあ、計算を進めよう。
     今後の計算が分かりやすいように
    と置くと、一番最初の方程式は、
    とシンプルに書けるわけだが、これに λU(x,t) という時間変化をする摂動項を追加しよう。
         (2)
     摂動論はわずかな変化に対してだけ使えるのだから λU は大き過ぎてはいけない。 本当は λ なんか導入する必要はなくて、 U は小さいとだけ言っておけばいいのだが、 λ があると次数の比較が分かり易いので入れて説明する。 後で式が導かれた後は λ = 1 と考えてやればいい。 これはまだ準備作業であって、λ に関わるのはもうしばらく後になる。
     この (2) 式に (1) 式を代入。
     左辺は cn と n をそれぞれ微分。 右辺は展開。 cn の時間微分は頭にドットをつけて表すことにする。
     左辺第2項を整理。 右辺第1項の は 固有値 En で置き換えることができる。
     これを見ると左辺第2項と右辺第1項は全く同じであり、相殺して

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    資料の原本内容

    遷移確率
    光電効果は光の粒子説の証拠とはならない?
    時間変化を含む摂動論
     今回は、ポテンシャルが時間的に変化する場合についても摂動論を使って解いてみよう。 これは単なる練習問題ではなくて、変動する電場の中に原子を置いたときに何が起こるかを知るためのヒントになる。
     変動する電場と言えば、電磁波はまさにそのような現象であるから、これは電磁波が原子に当たった時に起きる事を表しているとも言えるだろう。 まずはポテンシャルの形を具体的に決めないままで、論理の流れをざっと見てみることにしよう。
     やり方の基本思想は今までと変わらない。 まず次のような方程式については厳密な解が得られているものとする。
     いきなり「時間に依存するシュレーディンガー方程式」が登場して身構えてしまうかも知れないが、別に大したことはない。 ちょっと観察してみよう。 この式で使われているポテンシャル V(x) は時間に依存していない。 前に原子の構造を変数分離で解いたのを思い出してもらえばいい。 各エネルギー準位 En に属する解を n(x) として得たのだった。 そしてその時間変化まで知りたければ、その求めた解の後に
    のように位相が変化する振動部分を付ければいいのだった。 これは上の方程式の解になっている。 今回はこの方程式を少し変化させたら、この解がどう変化するかを知ろうというのである。
     新しく求めたい解は、すでに求まっている解が完全系であることから、
         (1)
    という形で展開できるに違いない。 この係数 cn は以前の手続きでは定数だとしていたが、今回は時間の関数になっているとする。
     前に摂動論を使った時とは説明の始め方が少し違っていると気付いたかも知れない。 前はまず n と En をそれぞれ λ のべき級数で表して方程式に代入し、 λ が同じ次数のものを集めて、幾つもの関係式を導くところから始めたのだった。 しかし今回はその作業は後回しになる。 「時間に依存する方程式」にはエネルギー E が含まれないため、べき級数で表すのは n だけでいい。 それで計算の手間は前よりずっと簡単になる。 前は得られた多数の関係式の形に合わせて一つ一つ次数を上げて解いて行ったのだが、今回はある程度一気に手続きが進められるのである。
     時間変化を考慮に入れた方が難しくなるイメージがあるのに、教科書のこの部分の説明がやたら少ないのは単にそういう事情である。 不親切で手抜きがされているのではないかという心配は要らない。 さあ、計算を進めよう。
     今後の計算が分かりやすいように
    と置くと、一番最初の方程式は、
    とシンプルに書けるわけだが、これに λU(x,t) という時間変化をする摂動項を追加しよう。
         (2)
     摂動論はわずかな変化に対してだけ使えるのだから λU は大き過ぎてはいけない。 本当は λ なんか導入する必要はなくて、 U は小さいとだけ言っておけばいいのだが、 λ があると次数の比較が分かり易いので入れて説明する。 後で式が導かれた後は λ = 1 と考えてやればいい。 これはまだ準備作業であって、λ に関わるのはもうしばらく後になる。
     この (2) 式に (1) 式を代入。
     左辺は cn と n をそれぞれ微分。 右辺は展開。 cn の時間微分は頭にドットをつけて表すことにする。
     左辺第2項を整理。 右辺第1項の は 固有値 En で置き換えることができる。
     これを見ると左辺第2項と右辺第1項は全く同じであり、相殺して随分すっきりする。
     ここに左から k を掛けて積分してやると、左辺は n = k となる項だけが生き残って簡単になるが、右辺は U が挟まっているのでそうは行かない。
     この左辺にある指数関数を右側にまとめてしまおう。
     右辺の積分記号は大げさなのでブラケット記法を使わせてもらうことにしよう。
         (3)
     これでかなり分かりやすくなった。
     ここでようやく λ によるべき級数を導入する。 各係数 cn が、
         (4)
    のように展開できるものだと考える。 (先にこれをやっていたら上の計算は面倒なことになっただろう。) これは をべき展開したのと同じ意味である。 (1) 式を見てもらいたい。 cn(i) をどのレベルまで採用して cn を精密に再現するかによって の精度が決まるということだ。
     (4) 式を (3) 式に代入して、λ が同じ次数のものを両辺で比較してやると、
         (5)
    という多数のシンプルな関係式が出来上がる。 時間に依存しない摂動論の時とは雰囲気が随分違って見えるが、やっていることの意味は前と何ら変わらないことが分かるだろう。 最初の式が解ければその結果を代入して次の式が解ける、といった具合に解が求まる。 cn が分かれば、知りたかった新しい波動関数が作れることになるので、摂動論のテクニックとしてはここで一段落である。
    係数をどう解釈できるか
     次に気になるのは、上で導いた関係を使って具体的に各係数 ck(i) がどう定まるかという点である。 まず (5) 式の一番最初の式は ck(0) が時間的に変化しないということであり、これは摂動を加えるずっと前から、そして加えた後までもずっと変化しないでいる成分を表しているということである。
     例えば摂動を加える前に電子が Em のエネルギー準位にあることが確実だったとすれば、 cm(0) だけが 1 であり、その他の ck(0) は全て0だということである。  もちろん電子がどのエネルギー準位にあるかは観測するまでは定まっていないわけだから、場合によっては Em にある状態と En にある状態が半々に重なっているかも知れない。 その場合は cm(0) = 1/√2 , cn(0) = 1/√2 であり、その二つ以外の ck(0) は全て 0 だということになる。  しかし今は分かりやすい事例を考えたいので、初めに言ったような
    という状態からスタートしよう。 これを代入すれば (5) 式の2番目の関係式は
    となるから、これを時間で積分することによって、ck(1) は
    と計算する事ができる。 積分範囲が 0 ~ t であるのは、その範囲外の時間では摂動が加えられておらず、 U = 0 なので計算しなくてもいいだろうと考えての事である。 また摂動を加える前は ck(0) 以外は0の状態にあったと仮定したのだから、積分定数は0と考えてやればいい。
     U の具体的な形を決めないとこれ以上は計算できないわけだが、つまりこんな具合に計算できるという事である。 初めは電子が Em 以外にある可能性は 0 だが、摂動を加え始めてから t 秒後には Em 以外の Ek の状態に電子が見出される確率はおおよそ |ck(1)|2 となっていると言えるわけだ。
     「おおよそ」と書いたのは、これはまだ1次の項までしか計算していないからで、もっと詳しく計算したければ、λ = 1 と考えた場合、 |ck(1) + ck(2)|2 のようになるだろう。
     さあ、この結果はとても面白い。 外部からエネルギーを揺さぶってやると、次に観測した時には、電子は初めとは異なるエネルギーを持った状態に遷移している可能性があると言うのだ。 どういう揺さぶり方をした時にどのような遷移が起こり易くなると言えるのか、大変興味がある。
    何が起きているのか
     エネルギー Em から Ek への T 秒後の遷移確率を1次の項まで計算したものは
    と表せるのだった。 U の形を具体的に決めて計算しなくても、ある程度この式の性質を把握する事は出来る。
     まず、<k|U|m> というのは複雑な計算のようではあるが空間について積分しているに過ぎないので、もし U の時間依存部分だけが U = u(x) w(t) のような形で簡単に分離できるのであれば、そこだけブラケットの中から取り出しても構わない。
     残された <k|u|m> は時間に依存しない定数である。 よって遷移確率を次のように表してもいいだろう。
     この式の積分はフーリエ変換の式に非常によく似ているのに気付いているだろうか。 ここでは 0 ~ T までの積分となっているが、 T 秒後以降は摂動としてエネルギーを揺さぶるのをやめたとしたら、 t > T において w(t) = 0 であり、その範囲の積分は0となる。 また摂動を加え始めたのは t = 0 からなので、それ以前の積分の値も0である。 つまり積分範囲を次のように拡張しても値は変わらないだろう。
     これで積分計算はフーリエ変換の式そのものになった。 フーリエ変換というのは、複雑な形をした波があるとき、その中にどんな周波数成分がどれほど含まれるかを求める時に使われる。 波というのはどんな形をしていても、基本的な一定振幅、一定周波数の波の組み合わせに分解して表現できるのである。
     上の計算が意味するものは、w (t) の変化の中で、角振動数 ω が |Ek-Em|/ であるような成分だけを取り出して、その振幅を求めるということである。 w (t) に含まれるその他の周波数成分は、いくら振幅が大きくても遷移確率に全く影響しないというのだ。 つまり、w (t) の中に
    の関係を満たす変動があった時だけ遷移が起こるというのである。 そしてその波の振幅が大きいほど遷移確率は上がることになる。
     これを聞いて光の粒子性の話を思い出すかも知れな...

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