1-18エネルギー運動量テンソル

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    エネルギー運動量テンソル
    みんなテンソルになっちゃえ!
    質点のエネルギーと運動量
     ある点に質量 m の静止した質点が存在する時、相対論的にはそこに mc2 のエネルギーが存在していると解釈できる。 ところが、それに対して速度 v で運動する人がこれを見れば、同じ点に γmc2 のエネルギーが存在していると解釈できることになる。 ところがエネルギーだけではない。 同時に運動量 γmv もそこにあると見るだろう。
     ある人にはエネルギーにしか見えないものが、別の立場では運動量にもなるのである。
     逆は言えるだろうか? 自分にはある瞬間、ある点に運動量 p があるように見えるとする。 それを自分に対して速度 v で運動する人から見たら、この点の運動量はどのように変化して見えるだろう? これは難しい。 ただ運動量 p とだけ言われても、元々の質量が不明だし、質点の速度も分からないからである。 さらに、質量も速度も異なる複数の質点がその時たまたま同じ位置にあって、その合計が p だと言っているのかも知れない、と勘ぐる事もできる。
     視点の違いによって運動量がどう変化して見えるかを求めるには、次の二つの約束がされていないと難しいということだ。 一つ、速度の異なる複数の質点が同じ場所を占めているなどという計算を面倒にするような状況は起こっていないとすること。 もう一つ、その質点の質量、すなわち静止時のエネルギーも知らされていること。  いや、2番目の条件は少々強過ぎる。 代わりに、運動する質点の全エネルギー γmc2 が知らされていても構わない。 運動量が γmv なので、二つの情報から質点の速度 v が割り出せるはずだからだ。
     結局、ある人から見た運動量とエネルギーの情報さえあれば、その値を、別の人から見た値に変換できるということだ。 冒頭では、静止エネルギーだけから別の視点でのエネルギーと運動量を両方導いたように話しているが、実は自分から見て運動量が0だという情報もこっそり使っていたのであった。
    変換式を求める
     「エネルギーと運動量の値を一組にして扱えば、あらゆる慣性系での値が導き出せる」とは言ったが、その具体的な変換式の形がどうなるかを見てみないと気になるだろう。 求めてみよう。
     自分から見て、ある質点のエネルギーと運動量が ( E, px, py, pz ) だという情報があるとする。
    であるから、この物体の速度は
    であるということが導かれる。 また、その v を使って γ が計算できるから、この質点の静止質量は m = E/γc2 であることが分かる。 あとは、自分に対して速度 V で運動している人から見て、この質点の速度 v がどう見えるかさえ分かれば・・・。 あー、こりゃ面倒くさい!!  こんな回りくどい考え方じゃなくて、もっと簡単に計算できる方法はないものか。
    それが別の方法で出来そうなのだ。
     やってみよう。 質量 m が動いている時、私にはそれが、
    に見えるわけだ。 それは質点の4元速度を使えば、
    と表現できる。 ・・・ああ、そうか。 ちゃんと初めからエネルギーと運動量の次元を合わせておいてやれば、次のような非常に整った形式で表せるではないか。
     運動量とエネルギーの組で作ったベクトルが、4元速度ベクトルとこのような単純な関係になっているなんて気付かなかった。 前は E = mc2 の公式にたどり着くのに夢中になっていたからな。 話は予定していたよりも簡単に済みそうだ。
     とにかく、自分に対して速度 V で

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    資料の原本内容

    エネルギー運動量テンソル
    みんなテンソルになっちゃえ!
    質点のエネルギーと運動量
     ある点に質量 m の静止した質点が存在する時、相対論的にはそこに mc2 のエネルギーが存在していると解釈できる。 ところが、それに対して速度 v で運動する人がこれを見れば、同じ点に γmc2 のエネルギーが存在していると解釈できることになる。 ところがエネルギーだけではない。 同時に運動量 γmv もそこにあると見るだろう。
     ある人にはエネルギーにしか見えないものが、別の立場では運動量にもなるのである。
     逆は言えるだろうか? 自分にはある瞬間、ある点に運動量 p があるように見えるとする。 それを自分に対して速度 v で運動する人から見たら、この点の運動量はどのように変化して見えるだろう? これは難しい。 ただ運動量 p とだけ言われても、元々の質量が不明だし、質点の速度も分からないからである。 さらに、質量も速度も異なる複数の質点がその時たまたま同じ位置にあって、その合計が p だと言っているのかも知れない、と勘ぐる事もできる。
     視点の違いによって運動量がどう変化して見えるかを求めるには、次の二つの約束がされていないと難しいということだ。 一つ、速度の異なる複数の質点が同じ場所を占めているなどという計算を面倒にするような状況は起こっていないとすること。 もう一つ、その質点の質量、すなわち静止時のエネルギーも知らされていること。  いや、2番目の条件は少々強過ぎる。 代わりに、運動する質点の全エネルギー γmc2 が知らされていても構わない。 運動量が γmv なので、二つの情報から質点の速度 v が割り出せるはずだからだ。
     結局、ある人から見た運動量とエネルギーの情報さえあれば、その値を、別の人から見た値に変換できるということだ。 冒頭では、静止エネルギーだけから別の視点でのエネルギーと運動量を両方導いたように話しているが、実は自分から見て運動量が0だという情報もこっそり使っていたのであった。
    変換式を求める
     「エネルギーと運動量の値を一組にして扱えば、あらゆる慣性系での値が導き出せる」とは言ったが、その具体的な変換式の形がどうなるかを見てみないと気になるだろう。 求めてみよう。
     自分から見て、ある質点のエネルギーと運動量が ( E, px, py, pz ) だという情報があるとする。
    であるから、この物体の速度は
    であるということが導かれる。 また、その v を使って γ が計算できるから、この質点の静止質量は m = E/γc2 であることが分かる。 あとは、自分に対して速度 V で運動している人から見て、この質点の速度 v がどう見えるかさえ分かれば・・・。 あー、こりゃ面倒くさい!!  こんな回りくどい考え方じゃなくて、もっと簡単に計算できる方法はないものか。
    それが別の方法で出来そうなのだ。
     やってみよう。 質量 m が動いている時、私にはそれが、
    に見えるわけだ。 それは質点の4元速度を使えば、
    と表現できる。 ・・・ああ、そうか。 ちゃんと初めからエネルギーと運動量の次元を合わせておいてやれば、次のような非常に整った形式で表せるではないか。
     運動量とエネルギーの組で作ったベクトルが、4元速度ベクトルとこのような単純な関係になっているなんて気付かなかった。 前は E = mc2 の公式にたどり着くのに夢中になっていたからな。 話は予定していたよりも簡単に済みそうだ。
     とにかく、自分に対して速度 V で運動している別の慣性系にいる人にだって同じことが言えるはずで、質点のエネルギーと運動量が同じ形式で表せると主張しているはずだ。 ということは、その質点の4元速度がその慣性系でどう見えるかをローレンツ変換で求めてやりさえすれば、それに mc2 を掛けるだけで、その慣性系でのエネルギーや運動量を求められることになる。
     4元速度というのは反変ベクトルであって、ローレンツ変換と同じ形の変換に従う。 (だからこれまでずっと添字を右上に書いてきたのだ。) ついでだから、ここらで、x 方向の運動に限定しない一般的なローレンツ変換の形を示しておこう。
     面倒な形をしているが、行列で表せば綺麗に見える。
     同じように、
    となる。 ( E, c px, c py, c pz ) というベクトルも反変ベクトルであって、ローレンツ変換と同じ変換則に従っているんだなぁ。
     ちなみに、初めにチャレンジしようとした面倒な方法を使っても、長大な計算の末に同じ結果にたどり着くことは確認済みである。
    密度分布へ拡張
     質点の話だけではもったいない。 もっと質量がふわーっと広がって存在する状況についても考えよう。 質量が連続した密度分布を持つと考えるのである。 質量の密度というのは、相対論的に言えば「エネルギー密度」である。 また同時に、単位体積あたりに存在する運動量「運動量密度」という概念も導入する。
     考える事は先ほどとほとんど変わらない。 運動する「密度 ρ の連続体」のエネルギー密度は、私には γρc2 に見えている。 先ほどの議論の m を ρ に変えただけのことだ。 さて、本当にそれだけでいいだろうか。 ローレンツ短縮により、連続体は進行方向に対して縮んでいるように私には見える。 体積が縮んだ分だけ単位体積あたりの密度は γ 倍に増加しているように見えるはずなのだ。 よってエネルギー密度 ε は、γ2ρc2 に見えているとするのが正解である。 同様の理由で運動量密度 π も γ2 ρv と表されることになる。 これらを4元速度で表せば、
    となる。 なんと、ほとんど同じ形式できれいにまとまってしまった。 c だけ違うのはエネルギーと運動量の次元の差だから仕方が無い。 それでこれを美しくまとめて表現するために、次のような行列を作ってやろう。
     これを「エネルギー運動量テンソル」と呼ぶ。 4元速度ベクトルは反変ベクトルであった。 この行列は2つの4元速度の組み合わせで出来ているので、2階の反変テンソルとして変換されるはずだ。 4元速度の概念に果たして使い道なんてあるのだろうか、なんて言っていたこともあったが、今や大活躍だ。
     エネルギー密度 ε と 運動量密度 π とは、
    という形でこの行列に取り込まれていることになる。 右下の9成分は、物理的には応力テンソルを表しているのだが、なぜそう言えるのかについては、連続体の力学を学んで各自で考えてもらいたい。 ちょっと詳しめの力学の教科書を手に取れば載っているだろう。 私はこの部分について詳しく語るだけのネタを持ち合わせていない。
    エネルギー保存則
     このテンソルを使えばエネルギー保存則や運動量保存則がさっぱりした形式で表されてしまう。
     例えば、T01 を見よう。 T01 には運動量密度が入っているのだが、見方を変えれば、
    となり、x 方向の速度とエネルギー密度を掛けて c で割ったものとして解釈できる。 つまり、1×1× vx という大きさの箱の中に含まれるエネルギー量を c で割ったものである。 これは面積が 1×1 の yz 平面を通って、1秒間に x 方向へ通り過ぎてゆくエネルギー量(をcで割ったもの)に等しい。 エネルギーの流量を表していると言えるわけだ。
     下手な誤解が生じないようにちゃんと微小量を使って議論しよう。 もし T01 に dy dz を掛ければ、dy dz の大きさの yz 平面を通って1秒間に x 方向へ通り過ぎてゆくエネルギー量(をcで割ったもの)に等しいということは納得してもらえるだろう。
     これを x で微分して dx を掛ければ、微小距離 dx だけ離れた2点で、エネルギーの流量にどれだけの差があるかが求められることになる。
     流れの上流と下流の2点間に差があれば、エネルギーはその範囲内に徐々に蓄積されているか、あるいは元々その範囲内にあったものが余分に流出しているかのいずれかである。 そうでなければエネルギーの総量は保存していないことになる。 いや、y 方向や z 方向からの流入や流出も考えないといけないだろう。 というわけで、次のようにすれば文句はあるまい。
     これが微小体積 dV = dx dy dz の領域から単位時間あたりに流出しているエネルギーの総量(をcで割ったもの)である。 もし値が負ならば微小領域への流入を表している。
     ところで、微小領域 dV のエネルギー(をcで割ったもの)は (1/c) ε dV と表せるが、テンソルの成分を使って表現すれば、(1/c) T00 dV である。 つまり、次の式が成り立つ事になる。
     領域内のエネルギーが減少したときに流出量が増えるのだから、右辺に負がついているのである。 式を整理すれば、
    となり、これをアインシュタインの記法で表せば、
    となる。 もっと略して、
    と書いてもいい。
    運動量保存則
     同じようにすれば運動量保存則も表せそうだ。 例えば T11 を考える。
    であり、1秒間あたりに yz 面を通って x 方向へ流れる運動量の x 成分を表している。 後はエネルギー保存と同様の議論をするだけであるから、少々すっ飛ばしても分かるだろう。 これに dy dz を掛けて、x で微分して dx を掛ければ流量の差が求められて、y 方向や z 方向についても考慮すれば、次のようになる。
     これが微小体積 dV = dx dy dz の領域から単位時間あたりに流...

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