2-9ギブス・デュエムの式

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    ギブス・デュエムの式
    化学ポテンシャルの話の残り。
    ギブス・デュエムの式
     モル数 n を変数として導入したことによって、数学的扱いにどのような変更点があるかを整理しておこう。
     化学ポテンシャルとギブスのエネルギーとの関係が、
    であることは前に書いた。 そこで G を n で偏微分してやると、
    という関係が導ける。 難しそうに見えるだけで、難しい意味は全く無い。 モル数が1だけ変化するごとに、それに合わせて全体のギブスのエネルギーが μ ずつ変化するという本当に当たり前の事を言っているだけだ。
     ギブスのエネルギー G の全微分はこれを使って次のように拡張される事になる。
     ところで、G = nμ であることにより、
    という関係も同時に導けるのだが、この2つの式を比べると、
    という関係が成り立っていることが分かるだろう。 これを「ギブス・デュエムの式」と呼ぶ。 このように新たな条件式の存在が一つ導かれると、それによって変数の間の関係に何か新しい制限が加わっているのではないかと考えたくなるものだ。 それで教科書によっては、「新たな変数としてモル数 n が導入されたけれども、1種類の分子から成る系では自由度は増えていないことをこの式は表している」などと説明してあるものも見かける。 しかし、これは明らかな誤りである。 多分つまらぬ誤植のようなものだろうからあまり気にしてはいけない。 鵜呑みにするのはもっといけない。
     ではこの式は本当に自由度を制限していないのだろうか。 我々はモル数 n を導入した時に同時に変数 μ をも導入した。 2つの変数を導入したけれども、μ = G/n という関係式によって制限されているので実質は1つ分しか自由度が増えていない。 結局、モル数 n を導入したことで状態を決める自由度は3つに増えていることになる。 ギブス・デュエムの式はすでに導入された関係式を基にして作られただけのものであるから、自由度について新たに制限を加えるようなことはしていないのである。
     ここでしつこいくらいに自由度にこだわっているのには理由がある。 しばらく後の方で「ギブスの相律」と呼ばれる話を紹介することになるが、これは自由度についての話であり、これまた教科書によってはさらりとごまかしていることが多い部分である。 これには私も悩まされた。 それで、まだ話が簡単な今の内に基本的な部分をはっきりさせておこうというわけである。
    微分で見る化学ポテンシャル
     化学ポテンシャル μ はモル数が変化した時に直接的に変化するエネルギーの度合いを表しているのだった。 だから G を n で微分した場合に限らず、 F や H や U についても n で微分してやれば当然同じ値が出てくるに違いない。
    という具合だ。 正しいことを言葉で分かり易く説明しているのに、わざわざ数式に書き直さないと信じないという人がいる。 そういう人の為に、例えば F について証拠を示しておこう。 F = G - PV であるから、
    となり、これと
    とを比較すれば上の主張が正しいことが分かってもらえるだろう。
     ところでこれは n が微小変化する間に「その時の μ の値」に比例した分だけ F が変化するという意味であるのを忘れてはいけない。 なぜこんな当たり前のことを注意するかというと、 G の場合には μ = G/n と書けたが、F の場合には μ = F/n とは書けないからである。 このことをはっきり指摘しておかないと誤解する人が後を絶たないのだ。
     ほら、そ

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    資料の原本内容

    ギブス・デュエムの式
    化学ポテンシャルの話の残り。
    ギブス・デュエムの式
     モル数 n を変数として導入したことによって、数学的扱いにどのような変更点があるかを整理しておこう。
     化学ポテンシャルとギブスのエネルギーとの関係が、
    であることは前に書いた。 そこで G を n で偏微分してやると、
    という関係が導ける。 難しそうに見えるだけで、難しい意味は全く無い。 モル数が1だけ変化するごとに、それに合わせて全体のギブスのエネルギーが μ ずつ変化するという本当に当たり前の事を言っているだけだ。
     ギブスのエネルギー G の全微分はこれを使って次のように拡張される事になる。
     ところで、G = nμ であることにより、
    という関係も同時に導けるのだが、この2つの式を比べると、
    という関係が成り立っていることが分かるだろう。 これを「ギブス・デュエムの式」と呼ぶ。 このように新たな条件式の存在が一つ導かれると、それによって変数の間の関係に何か新しい制限が加わっているのではないかと考えたくなるものだ。 それで教科書によっては、「新たな変数としてモル数 n が導入されたけれども、1種類の分子から成る系では自由度は増えていないことをこの式は表している」などと説明してあるものも見かける。 しかし、これは明らかな誤りである。 多分つまらぬ誤植のようなものだろうからあまり気にしてはいけない。 鵜呑みにするのはもっといけない。
     ではこの式は本当に自由度を制限していないのだろうか。 我々はモル数 n を導入した時に同時に変数 μ をも導入した。 2つの変数を導入したけれども、μ = G/n という関係式によって制限されているので実質は1つ分しか自由度が増えていない。 結局、モル数 n を導入したことで状態を決める自由度は3つに増えていることになる。 ギブス・デュエムの式はすでに導入された関係式を基にして作られただけのものであるから、自由度について新たに制限を加えるようなことはしていないのである。
     ここでしつこいくらいに自由度にこだわっているのには理由がある。 しばらく後の方で「ギブスの相律」と呼ばれる話を紹介することになるが、これは自由度についての話であり、これまた教科書によってはさらりとごまかしていることが多い部分である。 これには私も悩まされた。 それで、まだ話が簡単な今の内に基本的な部分をはっきりさせておこうというわけである。
    微分で見る化学ポテンシャル
     化学ポテンシャル μ はモル数が変化した時に直接的に変化するエネルギーの度合いを表しているのだった。 だから G を n で微分した場合に限らず、 F や H や U についても n で微分してやれば当然同じ値が出てくるに違いない。
    という具合だ。 正しいことを言葉で分かり易く説明しているのに、わざわざ数式に書き直さないと信じないという人がいる。 そういう人の為に、例えば F について証拠を示しておこう。 F = G - PV であるから、
    となり、これと
    とを比較すれば上の主張が正しいことが分かってもらえるだろう。
     ところでこれは n が微小変化する間に「その時の μ の値」に比例した分だけ F が変化するという意味であるのを忘れてはいけない。 なぜこんな当たり前のことを注意するかというと、 G の場合には μ = G/n と書けたが、F の場合には μ = F/n とは書けないからである。 このことをはっきり指摘しておかないと誤解する人が後を絶たないのだ。
     ほら、それまで分かったようなつもりでいても、この話を聞いた途端に突然不安になりだす人がいるものだ。 「G で出来ることがなぜ F では出来ないのだろう?」 「G と F のどんな違いがこの差を生んでいるのだろう?」 そして何か重要なことを聞き逃したのではないかと心配になって復習を始めたりする。 そんな調べ直さないといけないほど難しい話ではない。
     そもそも μ = G/n と書けるのは定義である。 それゆえに、n 以外の変数、例えば p や T が変化した場合でも、 μ の変化と G の変化は常に比例しているだろう。 常に比例しているから μ = G/n と書ける。 いや、そう書けるのは定義だからなのだが、まぁそういう状況になっている。
     ところが F の場合には、n 以外の変数が変化した時の F と μ の変化の仕方は全く異なるのである。 常に比例していないから μ = F/n とは書けない。 ただそれだけの違いだ。
    多成分系
     ここらで一旦話を切ってもいいくらいだが、「ギブス・デュエムの式」が出てきたついでに多成分系の話にまで一気に突入してしまおう。
     これまで純粋な物質についてだけ考えてきた。 しかしそれで満足していては科学は発展しない。 複数の種類の分子が混じった状況についてもいつかは考えなくてはならない。 今考えよう。
     これまでの話の類推から、全体のギブスの自由エネルギーは、それぞれの種類の分子の1モルあたりのギブスのエネルギーにモル数を掛けたものの和で表せばいいだろうと考えられる。
     単純明快すぎて、こんなことでいいのかと逆に不安になるほどだ。 物質を混ぜたことによって、未知のエネルギー変化があるかもしれないが、その影響は μi に含めてしまえば楽である。 純粋な時と混合した時とで化学ポテンシャルの値は異なると考えるのである。
     上の式を各分子のモル数で微分した時には、
    という関係が言えることになる。 よって G の全微分は、
    のように表されるであろう。 ところで G の全微分は、
    と表現する事も可能である。 この論理の流れは少し前にやったばかりだ。 この2つの式を比較すれば、
    という関係式が得られるだろう。 これが複数の成分が混じっているときの「ギブス・デュエムの式」である。 p や T が一定であるような条件下ではこの式は
    というすっきりした形になるが、これも「ギブス・デュエムの式」である。 見た目が全然違うからといって「こんな式は知らない」と言って恥をかくことがないように気をつけよう。
     これだけの拡張をしただけで、もう複数の成分が混じった物質の平衡について論じることが出来るようになっている。 割と応用的な話なので後回しにしようかとも思ったが、ここらで具体的な話を差し挟んでおくのは役に立つかも知れない。 抽象的な説明ばかり聞かされていてはイメージがつかみにくくなってくるだろう。
    資料提供先→  http://homepage2.nifty.com/eman/thermo/duhem.html

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