1-11熱力学関数

閲覧数4,365
ダウンロード数12
履歴確認

    • ページ数 : 12ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    熱力学関数
    熱力学がこんなに美しかったなんて。
    ヘルムホルツの自由エネルギー
     定圧変化において d'Q と同じ意味を持つ状態量がエンタルピー H であった。 また断熱変化において d'W と同じ意味を持つ状態量は内部エネルギー U であった。
     では他には作れるだろうか? 例えば、等温変化において d'W と同じ働きをする状態量というのはどうだろう? やってみよう。
    と書ける。 エントロピーにはこんな使い道があるのだ。 この式を意識しながら、
    という量を作る。 この微小変化量は
    であるから等温変化 dT = 0 の場合には、
    となる。 これはさっきの d'W と同じではないか。 つまり新しい状態量 F は等温変化の時に取り出せる仕事 d'W を表しているのである。 しかし等温変化以外の時の物理的な意味はあまり無い。 この状況はエンタルピーと同じだ。
     この式の中の -TdS の部分は温度を一定に保つために使われるエネルギーを表しており、自由には取り出せないエネルギーである。 よって「束縛エネルギー」と呼ばれている。 それに対する意味で F を「自由エネルギー」と呼ぶ。 式を次のように書いた方がイメージしやすいだろうか。
     内部エネルギーに、仕事として取り出せる部分とそうでない部分があるわけだ。 自由といっても、束縛エネルギー以外は仕事として必ず取り出さなくてはならないわけで、自由に量を決められるという意味とは違う。 むしろ「仕事として解放 ( free ) される」といった意味に近い。
     この他にも似たようなものが後から出てくるので、区別するために F を「ヘルムホルツの自由エネルギー」と呼んでおくことにしよう。
    他の状態量を探せ
     他にはどんな状態量が作れるだろう? この調子でどんどん作れそうな気がする。 しかし下の表を見てもらいたい。
    等温変化 d'W = dF d'Q = T dS 断熱変化 d'W = dU d'Q = 0 定積変化 d'W = 0 d'Q = dU 定圧変化 d'W = - p dV d'Q = dH  すでに出来そうなものは全て埋まってしまっている。 今のところ、これ以上新しい量を作り出す理由はないようだ。
    溢れ返る関係式
     熱力学の第一法則をもう一度書く。
     これにここまでの知識を当てはめることで、
    と書き換えることが出来て、これは状態量の微小変化の間の関係を表している。
     これは U の全微分の形式になっているが、少し変形するだけで S や V についての全微分の形式にすることも出来る。
     ところで全微分というのは
    という形になっているはずである。 この3つの式とその前の3つの式の係数を比較すれば
    という関係が成り立っていることが言えるだろう。 いきなり幾つもの関係式が出てきてしまったが、イメージの伴わないような式が幾らザクザク出てきたところでそんなに面白いものではない。 本当に役に立つ関係かどうかもよく分からない。 たまに「科学者は使えない式を新しく見つけては喜んでいる」というような誤解を受けることがあるが、そういう趣味を持つのは一部の人だけだ。
     今の興味はむしろ、全部で幾つほどの関係式が導き出せるものなのか、という部分に向いている。 たとえ全ての関係を書き出すのが現実的でないとしても、それらを系統立てて理解することができるならそれでもいい。 丸暗記はまだやめた方がいい。
     この他にもまだ関係式が導き出せる。 全微分条件というのを使う。 前にも話したが、もう一度説明しよう。 

    資料の原本内容

    熱力学関数
    熱力学がこんなに美しかったなんて。
    ヘルムホルツの自由エネルギー
     定圧変化において d'Q と同じ意味を持つ状態量がエンタルピー H であった。 また断熱変化において d'W と同じ意味を持つ状態量は内部エネルギー U であった。
     では他には作れるだろうか? 例えば、等温変化において d'W と同じ働きをする状態量というのはどうだろう? やってみよう。
    と書ける。 エントロピーにはこんな使い道があるのだ。 この式を意識しながら、
    という量を作る。 この微小変化量は
    であるから等温変化 dT = 0 の場合には、
    となる。 これはさっきの d'W と同じではないか。 つまり新しい状態量 F は等温変化の時に取り出せる仕事 d'W を表しているのである。 しかし等温変化以外の時の物理的な意味はあまり無い。 この状況はエンタルピーと同じだ。
     この式の中の -TdS の部分は温度を一定に保つために使われるエネルギーを表しており、自由には取り出せないエネルギーである。 よって「束縛エネルギー」と呼ばれている。 それに対する意味で F を「自由エネルギー」と呼ぶ。 式を次のように書いた方がイメージしやすいだろうか。
     内部エネルギーに、仕事として取り出せる部分とそうでない部分があるわけだ。 自由といっても、束縛エネルギー以外は仕事として必ず取り出さなくてはならないわけで、自由に量を決められるという意味とは違う。 むしろ「仕事として解放 ( free ) される」といった意味に近い。
     この他にも似たようなものが後から出てくるので、区別するために F を「ヘルムホルツの自由エネルギー」と呼んでおくことにしよう。
    他の状態量を探せ
     他にはどんな状態量が作れるだろう? この調子でどんどん作れそうな気がする。 しかし下の表を見てもらいたい。
    等温変化 d'W = dF d'Q = T dS 断熱変化 d'W = dU d'Q = 0 定積変化 d'W = 0 d'Q = dU 定圧変化 d'W = - p dV d'Q = dH  すでに出来そうなものは全て埋まってしまっている。 今のところ、これ以上新しい量を作り出す理由はないようだ。
    溢れ返る関係式
     熱力学の第一法則をもう一度書く。
     これにここまでの知識を当てはめることで、
    と書き換えることが出来て、これは状態量の微小変化の間の関係を表している。
     これは U の全微分の形式になっているが、少し変形するだけで S や V についての全微分の形式にすることも出来る。
     ところで全微分というのは
    という形になっているはずである。 この3つの式とその前の3つの式の係数を比較すれば
    という関係が成り立っていることが言えるだろう。 いきなり幾つもの関係式が出てきてしまったが、イメージの伴わないような式が幾らザクザク出てきたところでそんなに面白いものではない。 本当に役に立つ関係かどうかもよく分からない。 たまに「科学者は使えない式を新しく見つけては喜んでいる」というような誤解を受けることがあるが、そういう趣味を持つのは一部の人だけだ。
     今の興味はむしろ、全部で幾つほどの関係式が導き出せるものなのか、という部分に向いている。 たとえ全ての関係を書き出すのが現実的でないとしても、それらを系統立てて理解することができるならそれでもいい。 丸暗記はまだやめた方がいい。
     この他にもまだ関係式が導き出せる。 全微分条件というのを使う。 前にも話したが、もう一度説明しよう。 関数 f ( x, y ) の微小変化 df が次のように書けるとする。
     これが全微分であるためには
    という関係が成り立っていなければならないというものだ。 「状態方程式の微分形」のところで話したのだが、思い出しただろうか。
     ここまでに U ( S, V ), S ( V, U ), V ( S, U ) についての全微分形式が出てきたが、それらにこの条件を当てはめる。 例えば dU は全微分であるので、次の関係が言えているはずである。
     こんな具合にして、他の2つの式からも新しく関係式が導かれる。 まだこれ以外にもあるのだろうか?  U, S, V については全微分形式に書くことができたが、残りの p, T, H, F についてはどうなっているのだろう。 もしこれらについても全微分形式が作れたなら、同様の手法を使って他にも関係式が導き出せるはずだ。  一体どれほどの数の式が出てくるのだろう。 限界まで調べてみよう。 何か全体像がつかめていきなり理解が広がるかも知れない。
    ルジャンドル変換
     例えば 関数 H についてだが、これは数学的には関数 U をルジャンドル変換することで得られる関数であるという関係にある。 今まで意識しなかったが実はそうなっているのである。
     ルジャンドル変換については解析力学のページで説明したが、別に解析力学が理解できなくても大丈夫な話なのでここでも説明しておこう。 熱力学では独立変数は2つだけなので、熱力学用に少し簡略化して説明するのがいいだろう。
     関数 f ( x, y ) があると、その全微分は
    なのだが、これを簡略化して次のように表現しておこう。
     ここでもし g = f + xz という新しい関数を定義すると、その全微分は
    であるから、もし a + z = 0 だったなら
    となり、g は y と z のみの関数となる。  しかし本当は
    なのだから、上で話したことを a, b を使わないでまとめると次のようになる。
     もし
    だったなら、これと対称的な形の
    が成り立つ。 もう一つついでに
    も成り立っている、と。 ルジャンドル変換とはこれだけのことだ。
     しかしこれが全てではなく、新しい関数を g = f - xz と定義しても同じようなことが出来る。 この式を f について解くと f = g + xz であるから、上で説明した場合の逆変換になっている。 ここでは念のために結果だけ書いておこう。
     もし
    だったなら
    が成り立つ。 もう一つついでに
    も成り立っている。
     他にも g = -f + xz や g = -f - xz という式から出発しても同じように話を展開できるが、これらの形式は熱力学では使わないので省略しよう。
    再確認
     では H の定義のどこがルジャンドル変換であるか比較して確認してみよう。 まず関数 U ( S, V ) を元にして
    という新しい関数を定義した。 実際に
    という関係が成り立っているのでこれはまさにルジャンドル変換である。 つまり、
    と、ついでに
    という関係が成り立っていると言える。 その結果、H は p と S の関数 H ( p, S ) になっており、その全微分は
    と書けるはずだから、上の結果を当てはめて、
    という形になっているということだ。 もちろんこんな事をしなくても、 H = U + pV であるから dH = dU + pdV + Vdp であり、これに dU = TdS - pdV を代入すれば同じ結果を得るのだが。 つまり、全くルジャンドル変換そのものだということだ。
     そう言えば、自由エネルギー F も似たような変形になっていた。
    と定義された関数は、
    が成り立っているが故にルジャンドル変換であって、同じようにして
    と、さらに
    が言えることから、
    が導かれる。 もちろんこちらも、先ほど求めた dF = dU - TdS - SdT に dU = TdS - pdV を代入すれば同じ結果を得るのだが。
    ギブスの自由エネルギー
     ここまで来ると沸々と野望が湧き上がってくる。 U ( S, V ) の独立変数 V を p に変更して H ( S, p ) を作った。 U ( S, V ) の独立変数 S を T に変更して F ( T, V ) を作った。 では両方変更して新しい関数 G ( p, T ) を作れないだろうか。 やってみよう。
     定義の方法は次のどれを使ってもいい。
     2番目を使ってみよう。 同じことをやるだけなので詳しくは書かない。 簡単な方法を使おう。
     これで G ( p, T ) の全微分の形が求められた。 勢いでやってしまったが、一体、どんな物理的意味があるのだろう。
     定圧条件で d'Q と同じ意味を持つエンタルピーから、等温条件で d'Q と同じ意味を持つ部分を引いている。 つまり、定圧・等温の時に dG = 0 になるような量だと言えばいいのだろうか。 しかしそもそも、定圧・等温では体積も変化しようがないのだから、何も変化しないのは当たり前だ。
     いや、定圧・等温の条件下でも体積が変化する可能性があるのを忘れていないだろうか。 今まで無視してきたが、化学変化などによってモル数が変化する場合である。 dG はその時のエネルギー変化を表しているのである。 詳しくは後で議論しよう。 まだ内容はよく分からないが、これを「ギブスの自由エネルギー」と呼んでおくことにする。
    熱力学関数
     ここまで色々な状態量が出てきたが、よく考えれば U, H, F, G は4つともエネルギーを表す量である。 しかし残りの変数 p, V, T, S はそれぞれ単位が違っている。 そこで、この U, H, F, G の4つを「熱力学関数」と呼ぶことで他の4つと区別して整理してみよう。
     そう分類してみれば、ここまでやってきたことは、p, V, T, ...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。