1-3コリオリの力

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    コリオリの力
    座標変換によって生じる力。
    雑学的知識
     19世紀。 大艦巨砲主義の時代。 大砲の照準を完璧に調整し、母国周辺の海域では無敵の命中精度を誇った戦艦が、いざ母国を遠く離れた大海原へ出て行って戦いを交えようとするとなぜか敵艦に当たらない。 こんな現象が海軍を悩ませていた。
     それもそのはず、砲弾は地球の自転の影響を受けて運動するために、緯度の違う海域で大砲を撃つと軌道に差が出てしまうのだ。  こんなことが19世紀まで未発見だったというのはかなり遅い気もするが、自転による影響など小さすぎて、こんな問題でも起こらない限り、誰も気にしなかったのだ。
     このことを示したのがフランスの物理学者、「コリオリ」(Coriolis)である。 彼の物理に対する貢献は大きく、それまで混乱して用いられていた物理用語を現在のように整備した人物としても有名である。
     この軌道のずれを生じさせる力を彼の名にちなんで「コリオリの力」と呼ぶ。 実は見かけ上、力が働いているように見えるだけなのだが、力なんてものはもともとそんなものだ。
     ちなみに、流しに貯めた水を流す時に出来る渦が北半球と南半球で反対向きになるなんていうのは嘘だから気をつけよう。 かなり厳密に実験しなければそんな差は出ない。 検索してみると、こんなことを信じてる人って結構いるものだなぁ。
     まぁ、計算してみれば全て分かることだ。
    座標変換
     静止座標系を( x, y, z )で表すとしよう。 ニュートンの運動方程式、
    はこの静止座標系の上で成り立っている。 成分に分けて書けば
    の3つの式が成り立っているということだ。
     この静止座標系に対して回転している別の座標系を考えて、これを( x', y', z' )で表すことにしよう。 z軸の周りに角速度ωで回転しているとすると、静止座標系との関係は次のように表せる。
     これから行うのは回転している座標系で表したときに先ほどの運動方程式がどのように変形されるかという計算であって、そのためには逆変換を用意したほうが便利である。 2つの座標の違いは回転角だけなのでωを-ωに直してやるだけで簡単に逆変換が求められる。
     では、この式を先ほどのニュートンの運動方程式の3つの式の右辺にそれぞれ代入してやろう。 まず、m (d2x/dt2) から計算してみよう。 面倒なので m を省いた部分だけを計算することにする。 高校の微分の知識で十分出来る計算だ。 式がややこしくなるので、変数の上に点(ドット)を書くことで時間微分を表現し、三角関数の中の ωt も書くのを省略する。 私が紙に計算するときに良く使う方法だ。 私の友人などさらに sin と cos を「∧」「∠」で表す速記的なテクニックを使っているが、とてもそこまではついて行けない。
     これを分かりやすくまとめてやれば
    となる。 ここで括弧の中を見ると、ちょうど座標変換と同じ形式になっているというので次のように変形したくなる誘惑に駆られるが、この変形は計算間違いである。
     我々の目的は、式を回転座標系の変数 ( x', y', z' ) で表すことなのであって、 このような罠に引っかかってはならない。 しかし、このような間違った変形をしても偶然にもコリオリの力と同じ形式になるので騙され易い。 そこらの教科書には変形の過程が詳しく書かれていないものが多くてあからさまには分からないが、この点においてどうも疑わしい解説がたまに目に付く。
     ではどうすればよいかと言うと、とりあえず右辺はこれであきら

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    資料の原本内容

    コリオリの力
    座標変換によって生じる力。
    雑学的知識
     19世紀。 大艦巨砲主義の時代。 大砲の照準を完璧に調整し、母国周辺の海域では無敵の命中精度を誇った戦艦が、いざ母国を遠く離れた大海原へ出て行って戦いを交えようとするとなぜか敵艦に当たらない。 こんな現象が海軍を悩ませていた。
     それもそのはず、砲弾は地球の自転の影響を受けて運動するために、緯度の違う海域で大砲を撃つと軌道に差が出てしまうのだ。  こんなことが19世紀まで未発見だったというのはかなり遅い気もするが、自転による影響など小さすぎて、こんな問題でも起こらない限り、誰も気にしなかったのだ。
     このことを示したのがフランスの物理学者、「コリオリ」(Coriolis)である。 彼の物理に対する貢献は大きく、それまで混乱して用いられていた物理用語を現在のように整備した人物としても有名である。
     この軌道のずれを生じさせる力を彼の名にちなんで「コリオリの力」と呼ぶ。 実は見かけ上、力が働いているように見えるだけなのだが、力なんてものはもともとそんなものだ。
     ちなみに、流しに貯めた水を流す時に出来る渦が北半球と南半球で反対向きになるなんていうのは嘘だから気をつけよう。 かなり厳密に実験しなければそんな差は出ない。 検索してみると、こんなことを信じてる人って結構いるものだなぁ。
     まぁ、計算してみれば全て分かることだ。
    座標変換
     静止座標系を( x, y, z )で表すとしよう。 ニュートンの運動方程式、
    はこの静止座標系の上で成り立っている。 成分に分けて書けば
    の3つの式が成り立っているということだ。
     この静止座標系に対して回転している別の座標系を考えて、これを( x', y', z' )で表すことにしよう。 z軸の周りに角速度ωで回転しているとすると、静止座標系との関係は次のように表せる。
     これから行うのは回転している座標系で表したときに先ほどの運動方程式がどのように変形されるかという計算であって、そのためには逆変換を用意したほうが便利である。 2つの座標の違いは回転角だけなのでωを-ωに直してやるだけで簡単に逆変換が求められる。
     では、この式を先ほどのニュートンの運動方程式の3つの式の右辺にそれぞれ代入してやろう。 まず、m (d2x/dt2) から計算してみよう。 面倒なので m を省いた部分だけを計算することにする。 高校の微分の知識で十分出来る計算だ。 式がややこしくなるので、変数の上に点(ドット)を書くことで時間微分を表現し、三角関数の中の ωt も書くのを省略する。 私が紙に計算するときに良く使う方法だ。 私の友人などさらに sin と cos を「∧」「∠」で表す速記的なテクニックを使っているが、とてもそこまではついて行けない。
     これを分かりやすくまとめてやれば
    となる。 ここで括弧の中を見ると、ちょうど座標変換と同じ形式になっているというので次のように変形したくなる誘惑に駆られるが、この変形は計算間違いである。
     我々の目的は、式を回転座標系の変数 ( x', y', z' ) で表すことなのであって、 このような罠に引っかかってはならない。 しかし、このような間違った変形をしても偶然にもコリオリの力と同じ形式になるので騙され易い。 そこらの教科書には変形の過程が詳しく書かれていないものが多くてあからさまには分からないが、この点においてどうも疑わしい解説がたまに目に付く。
     ではどうすればよいかと言うと、とりあえず右辺はこれであきらめて、左辺の変形を行うのである。 力の方向というのは座標を基準にして測る。 つまり、静止系で測った力 F は座標と同じ変形を受けて、
    のように表せる。 これらをまとめると、結局 x 成分の運動方程式は次のようになる。
       ・・・・(1)
     さらに y 成分についてもこれまでと同じ具合に変形してやって次のようになる。
       ・・・・(2)
     ここでこの結果を綺麗にするために、
    (1) 式 × cos ωt + (2) 式 × sin ωt (これで左辺に Fx' だけが残る) (1) 式 × sin ωt - (2) 式 × cos ωt (これで左辺に Fy' だけが残る)
    の二通りを計算してやるのだ。 すると不思議なくらいに綺麗に三角関数が消えてくれて次のような結果になる。
     z成分については計算するまでもないだろう。 これが回転座標系で成り立つニュートンの運動方程式の姿だ。
    もっと分かりやすくまとめよう
     私がここまでで言いたかったのは、「コリオリの力を求めるのに余計な解釈は要らず、ただただ機械的に運動方程式を座標変換して書き換えてやればいいだけだ」ということである。
     しかしこのままの形式では少し分かりにくい。 我々は、加速度の原因は力であるという見方に慣れているので、加速度を含む右辺第1項を左辺に移行し、残りを右辺にまとめてやって、右辺全体を物体に働く力であると解釈してやるのがいいだろう。
     右辺の第2項と第3項が座標変換によって新しく付け加わった力だ。 簡単な方から説明しよう。
     第3項は物体の座標が x' 方向に行くほど x' 方向に力を受け、 y' 方向へ行くほど y' 方向へ力を受けることを表している。 つまり、回転軸から離れるほど強く外側へ力を受けるのである。 これは物体に働く「遠心力」である。 物体の位置を軸からの距離と方向のベクトル r で表せば、第1式と第2式の力をまとめて
    と表せる。 この式は高校物理で習うだろう。
     次に第2項だが、これは物体が x' 方向へ移動する速度が速いほど - y' 方向へ力を受け、y' 方向へ移動する速度が速いほど x' 方向へ力を受けることを表している。 つまり、回転軸に垂直な面内での速度に応じて、この面内での進行方向の右側へ力を受けるというわけだ。 もちろん、この面を裏から見れば左へ曲がっているように見えるわけだが。 これが「コリオリの力」と呼ばれるものである。 この状況もベクトルの外積を使えば一つにまとめて表すことが出来る。 回転軸の方向(右ネジが進む方向)を向いた長さ1のベクトルを n としてやれば、
    と表せる。 こうして3つの成分の式はベクトルを使って次のような一つの式で表せることになるわけだ。
     この式が普通の教科書の表記よりすっきりしている理由は、ベクトル r を原点からの距離ではなくて軸からの距離にしてあるからであり、その点気を付けないといけない。 この方が分かりやすかろ?
    結局何が起こるのか
     コリオリの力が非常に弱いことはこの式を使って計算すれば分かるだろう。 ざっと見積もっても、自転による遠心力と同じ程度の力を受けるためには秒速100mを越える速度が必要である。 流しを流れる水がどの程度の速度であるかを考えてみるといい。  このような弱い力による影響を検出するためには長い時間が必要である。 大砲の場合は数キロ離れた目標に命中させる必要があるので、それだけ長い間この力の影響を受けているわけだ。 また、フーコーの振り子の実験は北極点でも24時間動かし続けないと一周しない。  
     コリオリの力は自転軸に垂直な面内での運動に対して働く力なので、赤道直下で水平に移動してもこの力は働かない。 しかし、垂直に投げ上げれば物体が自転に取り残されるように軌道が曲がることだろう。 なぜ自転に取り残されるのかって? 慣性が働いているからそんなことは起こらないんじゃないかって? いやいや、地表で物体が持っている自転方向の速度成分は、上空へ行ったときに自転についていけるほど速くはない。 地球から離れて回転半径が大きくなる分、もっと速い速度を持っていないと置いて行かれてしまうように見えるわけだ。 実はこれがコリオリの力の本質なのである。
     逆も言える。 北半球で真北を向いている人がいるとする。 宇宙からの飛行物体がまっすぐ北極上空へ向かって飛んでゆく光景は彼にとってどう見えるだろうか? この物体は南方から現れる。 しかし彼は地球と一緒に、自転方向である右手の方へ移動しているので物体は相対的に左へそれながら移動しているように見えるだろう。 ここでコリオリの力と違うじゃないかと思ってはいけない。 この物体はいずれ北極へ向かうのだ。 進路が右にずれたとしか思えない。
     学校では台風の渦巻きを説明するのに、「北半球では進行方向の右向きに力が働く」と簡単に習うだけだが、今回の話を聞けば、方角によっても力の働き方が違うことが分かるだろう。 北半球で東に砲弾を撃てば、弾道は右上方へそれるが、西に撃てば右下方へそれることになる。 地球規模でものを考えよう。
    見かけの力
     実は今回の記事を書いた目的は、相対論との類似性を指摘することにあった。 ではなぜ解析力学のページに書いたかといえば、ちょうどこのすぐ前で座標変換のやり方が説明してあるし、ドットを使って時間微分を表すやり方もここで使っているから詳しく説明する手間が省けるだろうという考えからである。
     相対論では重力の正体を座標変換によって生じる見掛けの力に過ぎないと説明する。 こう聞くとかなり神秘的に思えるかも知れないが、それほど不思議な操作をしたわけではなくて、結局ここでやっているのと同じことなんだよ、というのが言いたかったのである。
     そう言えば、コリオリの力とローレンツ力って形式が似ているなぁ、とわざとらしく言い残しつつ今回の話を終わる。
    資料提供先→  http://home...

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