第99回薬剤師国家試験168問 解説

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    テーマ:『Langmuir』の式

    資料の原本内容

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 168

    下図は、薬物と血漿タンパク質との結合実験の結果から得られた両逆数プロットである。
    この薬物の血漿タンパク質に対する結合定数 K((μmol/L)-1) として最も近い値はどれか。
    ただし、図中の r は血漿タンパク質 1 分子あたりに結合している薬物の分子数を、
    [Df](μmol/L) は非結合型薬物濃度を示す。

    1.

    25

    2.

    50

    3.

    100

    4.

    125

    5.

    250

    問題の解説の前に、まずは血液についての話をしよう。
    血液というのは何から出来ているんだっけ?みんなは未来の薬剤師だから、
    少し詳しく覚えておこうね。
    まず、血液は血球成分と血漿成分に別れるのだったよ。
    そして血球成分は以下の 3 つ
    ⇒ 赤血球・白血球・血小板
    血漿成分とは要するにサラサラした液体成分の
    ことで、この中に今回のテーマ、『血漿タンパク質』
    が含まれていることをしっかりと覚えておこう。

    さて、この血漿成分のうち、血漿タンパク質ってどれくらい入ってるんだろ
    う?実はこの血漿成分ってやつはほとんどが水分で、血漿タンパク質はたった
    の 8%しかないんだ。
    1

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 168

    このたった 8%の血漿タンパク質はたくさんの種類があり、数え上げれば 100
    を超えちゃうんだ(アルブミン、グロブリンとか、その他もろもろ)けど、そ
    の 60%はアルブミンだ。だから問題によく出てくるんだね。
    血漿タンパク質と言えばアルブミン、これはもう常識にしておこう。

    さて、この血液中に存在するアルブミンはどんな働きをしているんだろう?

    アルブミンの働き
    ①浸透圧の調節

    参考

    血液製剤について

    http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/albmen/alb_02.html

    ②体内のいろんなものと結合し、目的地に運ぶ

    今回重要なのは②の“結合”という性質だ。
    経口投与されたお薬は小腸から門脈を通り、肝臓で肝初回通過効果を受けた
    後、やっとの思いで体循環に入る。けれど②の性質があるために、血管に入っ
    たら入ったで今度は“アルブミンに捕まっちゃう”んだよ。この捕まってしま
    った状態のことを、『薬物がタンパク結合した』と表現するよ。
    アルブミンに捕まったお薬は、本来のお薬としての機能を果たせなくなるた
    め、患者さんが飲んだお薬がどれくらいアルブミンなどの血漿タンパク質に結
    合しやすいかは、とても重要なデータと言えるよね。
    2

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 168

    極端なことを言ってしまえば、血漿タンパク結合率 100%の薬なら、血漿タン
    パクそのものの数以上の分子数の薬を飲まなければ、まったく効き目がないわ
    けだからね。
    では、そんな血漿タンパク結合率を計算する方法がはたしてあるのか?
    うん、ある笑!

    それが次に示す、ラングミュアーの式だ!!

    Langmuir の式

    r

    n  K  Cfree
    1  K  Cfree

    つの血漿タンパク質に
    r : 1何個の薬物が結合しているか

    n : 血漿タンパクの持つ薬物の結合部位の数

    K : 結合定数

    Cfree : 血漿タンパクにくっついていない
    フリーの薬物の濃度

    もともとは気体分子の吸着について議論するために作られた式だったけど、
    それはまた別の機会に説明しよう。
    さて、Langmuir の式は丸暗記しづらいね、各パラメータが何を示すのか具体
    的に図とリンクさせておかないと想い出すのも難しい。
    今から丁寧に図と照らしあわせて意味を把握していこうね。まず図を書き、
    その図から式を思い出すようにしよう。

    3

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 168

    Cfree (タンパク結合していない薬物濃度)はコレだね。

    今回のように、問題によっては[Df]などと書かれる
    こともあるよ。

    n (結合部位数)はこのタンパクの場合 2 個だね。

    r (1 つのタンパクに何個薬物がくっついているか)はどうかな?
    今、図ではタンパクが 2 個で、全部で 2 個の薬物が結合しているから、
    薬物が 2 個
    薬物がえt
    r
    =1
    タンパク
    タンパクが
    2個

    だね!

    1 個のタンパクに
    平均して 1 個の薬物が結合している!

    この意味でみんな迷うんだけど、それは n(結合部位数)との違いがわかり
    にくいことから来ていると思う。

    上の例でもわかるように、n とは 1 つの車の座席の数であり、
    r とは 1 つの車に乗っている人数の平均なのだ。
    だから、もし薬物の濃度が高くなっていけば、だんだんと座席が埋まってゆ
    き、平均値である r はだんだんと席の数 n そのものに近づいてゆくのも納得
    できるよね。
    全ての車の 2 座席が埋まっちゃえば、最終的に平均値も 2 人になるのは当た
    り前だよね。
    Langmuir の式を思い出すときは、いつもこの図を紙に書いてから思い出すよ
    うにすると理解が深まっていくよ。
    4

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 168

    さてここからは“直線に帰着せよ”というテーマだが、詳しくはまた別の機
    会(現在作成中、仮タイトル『直線の優位性』)で行うとして、今回は代表的な
    2 つの方法があることを知っておこう。

    “直線に帰着せよ”の 2 つの技
    ①Kloz 式(両辺逆数プロット)
    ②Scatchard 式(分母払うプロット)

    さて、今回はどちらを使うのだろう?ヒントは問題文にあるグラフの縦軸、
    横軸のパラメータだ。
    縦軸、横軸をよく見て欲しい、こんな値が出てくるのは Kloz 式
    の方だ、Langmuir の式を Kloz 式によって式変形してみよう。
    以下の右辺の様な式が作れるね。

    n  K  Df 
    r
    1  K  Df 



    1 1
    1
    1



    r nK Df  n

    このように Y と X を設定して見れば、これはただの
    直線の式だよね、中学 1 年生で習ったやつだ。
    Y=aX+b (a:傾き b:切片)

    あとは問題文のグラフから読み取った数字を、この kloz で変形した Langmuir
    の式に当てはめれば、結合定数 K は自動的に出てくるよ。
    5

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 168

    ___________________________________
    【解答】
    Langmuir の式を Kloz により式変形し、下の式を得る。

    1 1
    1
    1



    r nK Df  n

    ・・・(*)

    また、グラフの切片より

    また、グラフより

    1
    1
    n

    n  1

    1
     3 ・・・②、
    r

    ・・・①

    1
     250 ・・・③
    Df 

    以上、①、②、③を(*)に代入すると、以下のようになる。

    3

    1
    1
     250  ・・・(*)❜
    1 K
    1

    (*)❜を K について解くと、K=125((μmol/L)-1)

    ___________________________________
    解答自体は代入すれば終わりだから簡単だけど、背景にあるパラメータの意
    味をしっかりと理解しておこうね。
    さて、ついでだから関連問題として【第 99 回の問 42】もやっちゃおう。単
    に式を知っているかどうかを問う問題だよ。

    6

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 168

    【第 99 回

    問 42】

    薬物の血漿タンパク結合の解析に用いられる式はどれか。1 つ選べ。
    1.
    2.
    3.
    4.
    5.

    Henderson-Hasselbalch 式
    Langmuir 式
    Augsberger 式
    Arrhenius 式
    Cockcroft-Gault 式

    今まで勉強してきたように、タンパク結合の解析に使うのは 2.Langmuir 式
    でいいね。
    1.

    Henderson-Hasselbalch 式 は、緩衝液の pH 算出に用いる式だ。

    3.

    Augsberger 式 は小児科で用いられることも多い、年齢から大体の
    小児薬用量を計算する式だ。あくまで概算だけどね。

    4.

    Arrhenius 式 は反応速度定数と絶対温度との関係式だ。これもいずれ解説
    する日が来るだろう。

    5.

    Cockcroft-Gault 式 はクレアチニンクリアランスを計算する式、
    これもいずれ解説しよう。
    ___________________________________

    さて、今回の問題では Langmuir の式を、パラメータの意味も含めて正確に
    理解できるような解説に重点を置いて書きました。
    特に n(結合部位数)と r(座席に座る薬物の平均個数)は誤解が生まれや
    すいパラメータだから注意しようね。
    『直線の優位性』についても解説したかったけど、長くなるのでまた別の機
    会に説明するよ、楽しみにしててほしい。
    //
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