芥川龍之介『鼻』にみられる古典物語への改変と効果

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資料紹介

古典物語を改変した芥川龍之介『鼻』にみられる人間の深層心理を、芥川龍之介に影響を与えた人物や同作者の作品、彼の古典文学に対する見解、など様々な概念や角度から詳しく分析し、深く掘り下げていく。

芥川龍之介『鼻』

[あらすじ]池尾の高僧・禅智内供は、人並みはずれた長鼻の持ち主で、鼻ゆえに傷つく自尊心に苦しんでいる。さまざまに手を尽くした末、ようやく鼻を縮めるのに成功するが、前にも増して人々の冷笑を買う。ある夜、鼻は水気をふくんで元通りに長くなったが、内供の心はかえって晴ればれとする。

この作品は「宇治拾遺物語」の「鼻長き僧の事」と「今昔物語集」の「池尾の禅珍内供の鼻の語」を一応の典拠としているが、内容を大幅に改変して創作したものである。夏目漱石の激賞をうけ、芥川の文壇登場のきっかけとなった。近代文学の古典の一つに数えられる。


Ⅰ.芥川の「鼻」における改変の効果とその理由なるべきもの


[歴史物語:『今昔物語集』と『鼻』の比較]

・『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の内容:童が粥の中へ鼻を落とした話を中心にしている
・『鼻』:「鼻を粥の中へ落とした話は、当時京都まで喧伝された」とあり、「けれどもこれは内供にとって、決して鼻を苦に病んだ重な理由ではない」とある。
→『鼻』のほうでは、童が粥の中へ鼻を落とした話は重要視されていないように思う。

・『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』が客観的に内供を書いているのに対し、『鼻』では内供の心理が細かくかかれている。
・話の終わり方にも少し違いがあり、『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』が内供を嘲笑するような愉快な終わり方であるのに対し、『鼻』では、「長い鼻を秋風にぶらつかせながら」と情緒的な終わりになっている。

こうして見ていくと、私には『今昔物語集』・『宇治拾遺物語』と『鼻』の主人公である禅智内供は、少し異なる印象を受ける。どの作品においても禅智内供は滑稽な人に見えるが、前者の内供は滑稽な今昔話としての主人公であり、後者は読み手に同情さえ覚えさせる。


論点)芥川龍之介に内容を大幅に改変された「鼻」はどのような効果をもつのか?
作者は何をテーマとし、伝えるべく改変に至ったのか?


① 効果その1:内供の鼻をコンプレックスとして描き出す

・『今昔物語集』=事象を追跡する。
 →人間の行為を描写するが,心理の分析には欠ける所がある。
 内供の心理については言及していない。
・芥川龍之介「鼻」=事象+心理
→作者は内供の鼻を、コンプレックスの表象として焦点をあてることにより、巧みに内供の心理状態を描き出している

[内供の鼻がコンプレックスであると思われる描写]
(※本文抜粋)
・勿論表面では、今でもさほど気にならないような顔をしてすましている。これは専念に当来の浄土を渇堯すべき僧侶の身で、鼻の心配をするのが悪いと思ったからばかりではない。それよりむしろ、自分で鼻を気にしていると云う事を、人に知られるのが嫌だったからである。
・内供が鼻を持てあました理由は二つある。―一つは実際的に、鼻の長いのが不便だったからである。(中略)――けれどもこれは内供にとって、決して鼻を苦に病んだ重な理由ではない。内供は実にこの鼻によって傷つけられる自尊心のために苦しんだのである。
・内供の自尊心は、妻帯と云うような結果的な事実に左右されるためには、余りにデリケイトに出来ていたのである

参照:別紙※コンプレックスとしての鼻


効果その2:冒頭部分の

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芥川龍之介『鼻』にみられる古典物語への改変と効果
~人間の深層心理に迫る~
芥川龍之介『鼻』
[あらすじ]池尾の高僧・禅智内供は、人並みはずれた長鼻の持ち主で、鼻ゆえ
に傷つく自尊心に苦しんでいる。さまざまに手を尽くした末、ようやく鼻を縮
めるのに成功するが、前にも増して人々の冷笑を買う。ある夜、鼻は水気をふ
くんで元通りに長くなったが、内供の心はかえって晴ればれとする。
この作品は「宇治拾遺物語」の「鼻長き僧の事」と「今昔物語集」の「池尾の禅珍内供
の鼻の語」を一応の典拠としているが、内容を大幅に改変して創作したものである。夏
目漱石の激賞をうけ、芥川の文壇登場のきっかけとなった。近代文学の古典の一つに数
えられる。
Ⅰ.芥川の「鼻」における改変の効果とその理由なるべきもの
[歴史物語:『今昔物語集』と『鼻』の比較]
・『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の内容:童が粥の中へ鼻を落とした話を中心にし
ている
・:「鼻を粥の中へ落とした話は、当時京都まで喧伝された」とあり、「けれどもこ
れは内供にとって、決して鼻を苦に病んだ重な理由ではない」とある。
→『鼻』のほうでは、...

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