フロイトの理論について
精神分析とは、フランスで精神科医としてヒステリー(不安症状)の治療をしていたフロイトが考案した精神的な病気を治療する心理療法である。フロイトは最初「意識、前意識、無意識」という心の三層構造を考え出す。この中で、意識は日常感じ取れるもの、前意識は非常に努力をしないと感じ取れないもの、無意識は決して感じ取れないものとして、無意識を広大な領域に、意識を狭い領域として考え出した。彼は無意識の心的精神過程がヒステリーに影響を与えていると考え、その中で「防御」と「抑圧」という2つを打ち出す。このうち防御とは自分の心の状態を無意識が守ること、抑圧とは実際には受け入れがたい考えを無意識の中で押しとどめて、そのための感情を意識から追い出すことを指す。フロイトはこれに基づき、ヒステリーは耐えがたい考えから身を守ろうとして、ある程度の考えを抑圧するために起こると考えた。
そして十数年後「イド・自我・超自我」が構成する人格理論へと変更していく。イドは欲求を満足させるために、とりあえず現実を無視して、その場にあるものを手に入れようとする快感原則に従う。『心理学の基礎』編で「隣の人からものを奪ったって手に入れようとする」と書いたのはこの部分である。また、それが達成されないときはそれを満足させるために十分なイメージを作り上げる一次過程を用いる。このイドは本能、性、攻撃をいった衝動、そのすべてが起きる。また、イドには抑圧されたものを多く含んでいるとされている。フロイトはこの中でも特に性衝動について取り上げ、それを「リビドー」と名づけていろいろな考えに活用していった。ヒステリー患者の多くが性的な外的体験を持つことに着目したのもそこにベースがある。
さて、このイドの上に存在し、意識、前意識、無意識すべてに関わるのが自我である。自我はイドからの欲求を現実に合った形に直す役割(現実原則)や、その欲求をかなえるための行動を現実に即して作り上げたりする。これを二次過程をいう。また、自我は防御をコントロールする。防御には、抑圧、否認、投射など様々な手段があり、これらは危険が迫ったときに行われるが、そのきっかけとなるのが「不安」である。自我はこれらの防御機制を使って色々な場面を乗り越えるが、この上にはさらに「超自我」が働いている。超自我はいわば相談役であり、自我が形成された後に両親の躾や社会の欲求を地震の中に取り入れることによって作られる。自我は計画を立てて満足を延期させたが、超自我はそれ自体を否定し禁止する。
フロイトはこの人格理論に基づいて、精神分析療法を作り出す。この療法での最大の目標は、この抑圧された無意識を意識化して洞察し、自我を拡大し、強化することだった。そしてそのための手段として「自由連想法」を生み出されたのである。一般に精神的な症状を起こしたり、自己不全な状態に陥る人は、超自我が厳しすぎて欲動や感情が意識の世界に出てこないよう無意識の中に閉じ込めてしまうようにと自我が働きかけている。その結果、自分が欲しているのかわからない、何をしているかわからないといった状態になり、それが衝動的な行為や身体症状といったものになって現れる。そこで心理療法ではこの厳しすぎる超自我をゆるめ、欲望や感情を表現でき、それをまた肯定できるようにすること(無意識の肯定化)、そして自我の発達、強化を促し、適切な方法で今後は対応できるようにすることが目的となる。超自我は幼児期の親子関係がベースとなっているので、そこから見直し、修正することも必要である。
治療には「自由連想法」が用いられる。これは思い浮かんだことを包み隠さずすべて話すことであり、これは予想以上につらい方法である。常識や自分の価値観などで判断したり、抑制することは許されない。これを行うことで、無意識な世界を明らかにしていき、自分の内面を自分のものとして理解して自己理解を深めていく。治療をしていくうちに、患者は超自我が緩み始め自由な気持ちで語ることができるようになるが、そのうち「抵抗」という治療の進展を妨げる無意識の心理的働きが表れる。この抵抗には自分を守る防御性抵抗とともに「転移」があり、患者が過去の重要な人物の像を治療者に重ねていると考えられている。また、フロイトは睡眠時に無意識にみる夢の中の象徴を深く分析し、夢の中にでてくるモノは何かの心理的な事柄が抑圧され変形して現れたものではないかとする夢分析論を作り上げた。フロイトは特にそれらの中に性的な象徴が多数あることを見出した。
このようなフロイト理論は、今日の人格心理学や臨床心理学、児童心理学などの発展に大きな影響を及ぼした。