「社会の規範及び社会の公共性を支える「怒り」という感情について」
ヌスバウムによれば、感情とは、人々が被ってきた損害、被るだろう損害、あるいは幸運にも被らずにすんだ損害を表現する反応であり、それは脆弱性(vulnerability)という観念と密接に結びついている。脆弱性ゆえに外界に対して感情という方法で反応し態度をとることになるのだが、「怒り」については「他人の不正な行為」を認知する前提が必要で、その高度な認知的内容を備えた上での、不当になされた被害についての信念を含んだ感情であり、理に適った(reasonable)な感情なのである。また、「怒り」の対象となった他人について、判断力を備えた人格として、また、不正行為をしないことができた正常な人間として捉える前提が必要で、「怒り」は人間同士の正常な関係や規範に関わる重要な感情であるとしている。この点で「怒り」は社会の規範及び社会の公共性を支える大切な感情であるとしている。
しかし、ここでヌスバウムは「怒り」の正当性、理に適っているかどうかを判断する際の注意点を指摘してくれている。「怒り」は怒っている人の対象認知や信念、因果的状況や文...