『言葉の身振りについて』
梶井基次郎著「檸檬」を読んで以下述べる。
1.著者及び作品について
著者である梶井基次郎は大阪に生まれる(1901-1932)。同人誌「青空」で積極的に活動するが、少年時代からの肺結核が悪化し、初めての創作集『檸檬』刊行の翌年、郷里大阪にて逝去する。
えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦躁と言おうか、嫌悪と言おうか…との書き出しで始まる、この小説「檸檬」は1925年(大正14年)、中谷孝雄、外村繁らとの同人誌「青空」の創刊号の巻頭に掲載され、短編小説ながら梶井基次郎の代表作として世に名高い。
檸檬という爽やかな響きとは裏腹に、この作品は「私」という主人公を通じ、日常に潜む不安感と虚無感に対し、どうしようもなく無力である自分を描いている。その中で、ふとした一瞬のひらめき、この作品においてはたわいもない一瞬の悪戯、ふと手に取った檸檬を自己のコンプレックスの象徴である画集の上にそっと置く、ただそれだけの行為により人生にどのような光沢を与えるかを指し示している。わずか数ページの短編小説ながら、数々の表現が鮮烈なイメージを読者に与える。
2.抽具、明...