1 『セールスマンの死』を長男ビフの観点から』論ぜよ。
ミラーの代表作となったこの芝居は、いわゆるアメリカンドリームと言われる成功神話を巡る物語であるが、父親ウィリーと長男ビフとの父子関係がもう一つの大きなテーマとして存在する。主人公ウィリーは人に好かれることこそ成功の鍵であるという信念のもとに生きてきた人物であり、息子トムにもこの信念を教え込んできたが、トムはその期待に応えることはできない。そして、父の浮気を知り、偶像視していた父に幻滅する一方、父に教えこまれた成功神話から逃れられず、結果として父の期待に反し、成功とはほど遠い人生を送ることとなる。
成功神話を巡るテーマの主人公をウィリーとすると、父子対立のテーマのビフは主人公である。父親ウィリーと対立しながら自己のアイデンティティーを探求し,自己覚醒を果たす様が描かれる。ウィリーがアメリカの一時代前の古い価値観とセールスマンシップに囚われている一方,ビフは少なからず精神的苦悩を経た後に,現実から目をそらすことなく真実と直面し,最終的には自己発見を果たす。
物語後半、ビフはウィリーとの問題にケリをつけるべく最後の勇気を振り絞り、父親に...