『三国伝記』巻十二第三「恵心院源信僧都事」における唱導文学的特徴について述べよ。 唱導とは、一般には仏教の教えを説いて人を導くことをさす。その際の導き方は、僧侶が法会で座にのぼって説法をし、あるいは因縁を述べ、あるいは譬喩を引くことによって、仏法を説き人心を化導しようとしたのである。「声・弁・才・博」が条件として挙げられ、その内容は対機説法で、対象とする人と場によって内容と言葉を使い分けることも望まれた。まさしく説教・説法・説経であり、声や音や身体技法によって、節をつけて因縁や譬喩を物語り、仏法の功徳を説くことで、教義や思想をわかりやすく民衆に解き明かしたのである。 唱導は、表白、経釈、願文から成るものとされる。表白は出家の人々が作成する、法会を荘厳する言説であり、その文言は僧侶にとって、いかに記述するかが重要な関心事となっていき、模範となる雛型が出来上がっていった。経典を講説し解釈を施す経釈の部分も、聴く人々を感動させるため多くの工夫が施されるようになり、対句表現を多く用いたり、美辞麗句を連ねたりとその方法は多岐にわたったようである。願文は施主の願意を盛った文章であり、多くは時の...