ポール・オースターの『ムーン・パレス』を分析的に考察した。(訳:柴田元幸、出版:新潮文庫 より) また、オースターの作品に関するいくつかの論文も引用・参考にしている。レポートなどの参考にしてもらえると良い。
―ポール・オースター『ムーン・パレス』を読んで―
Ⅰ.はじめに
本レポートにおいては、『ムーン・パレス』 を読んで、そこから読み解くことができる様々な特徴や、独特な視点及び観点というものについて、改めて考察し直した。(というのも、元々この作品は私のお気に入りの一作であって、ある種の反社会的な理想主義、また若者特有のある種の知的な自由精神、並びに自身のルーツを探る旅など、どれもこれも私にとっては「杓子定規ではない生き方」の典型のようなものとして以前は捉えられていたのである)。つまり、文章上のタッチや、そこに散りばめられている数々の伏線などのについては深い考察も無しに読んできたことが、今回の再考察によって浮き彫りとなる形で反省させられたわけである。
Ⅱ.あらすじ
父親を知らない、幼いころに母(エミリー・フォグ)を交通事故で失った孤児マーコ・スタンリー・フォグは、母型の伯父(ヴィクター・フォグ)に育てられる。しかし、大学在学中にこの最後の血縁さえも失ってしまい、その後生計を立てられなくなったマーコはセントラルパークのストリートチルドレンへと成り果てる。友人のジンマーと中国系の孤児キティ・...