1.はじめに
美術とは空間的・視覚的美を表す絵画、彫刻、建築物などを指すが、それらに共通して言えることは目に見える形で表現されている、ということだろう。花や鳥のように、モチーフが目に見える存在である場合はよい。しかし、モチーフが目に見えない存在である場合、美術ではそれをどのように表現するのだろうか。
今回は、神という不可視の存在をモチーフにすることの多い宗教美術に対象を限定し、美術が不可視の存在に対して果たす役割について考察したい。以下で宗教美術、特にキリスト教美術における神の表現という点から、そのことについて述べていく。
2.宗教美術と不可視の存在をめぐる歴史
宗教美術が一般的な美術と最も異なっている点は、それが最終的に神に対する賛美へと向かわなければならない点である。また、そのモチーフが人間とははるかに断絶された不可視な存在である点も、違いとして挙げられるかもしれない。ところが、そもそもユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの教理では本来、宗教美術を含め、神を具象したものを宗教的象徴として尊重する「偶像崇拝」は厳禁であった
見えるものと見えないものの関係――宗教美術の役割から
1.はじめに
美術とは空間的・視覚的美を表す絵画、彫刻、建築物などを指すが、それらに共通して言えることは目に見える形で表現されている、ということだろう。花や鳥のように、モチーフが目に見える存在である場合はよい。しかし、モチーフが目に見えない存在である場合、美術ではそれをどのように表現するのだろうか。
今回は、神という不可視の存在をモチーフにすることの多い宗教美術に対象を限定し、美術が不可視の存在に対して果たす役割について考察したい。以下で宗教美術、特にキリスト教美術における神の表現という点から、そのことについて述べていく。
2.宗教美術と不可視の存在をめぐる歴史
宗教美術が一般的な美術と最も異なっている点は、それが最終的に神に対する賛美へと向かわなければならない点である。また、そのモチーフが人間とははるかに断絶された不可視な存在である点も、違いとして挙げられるかもしれない。ところが、そもそもユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの教理では本来、宗教美術を含め、神を具象したものを宗教的象徴として尊重する「偶像崇拝」は厳禁であった...