母性看護学実習(産褥期)の事前学習です。
<内容>
1.悪露および子宮収縮状態の経日変化
2.乳房の観察点と判断基準
3.初乳と成乳、母乳栄養の利点
4.褥婦の全身の変化・悪露交換
5.褥婦の生活
6.産褥体操 ―目的・留意点・実際―
7.保健指導
母性看護学(産褥期)事前学習
目次
1.悪露および子宮収縮状態の経日変化
2.乳房の観察点と判断基準
3.初乳と成乳、母乳栄養の利点
4.褥婦の全身の変化・悪露交換
5.褥婦の生活
6.産褥体操 ―目的・留意点・実際―
7.保健指導
1.悪露および子宮収縮状態の経日変化
<子宮収縮状態>
産褥日数 恥骨結合部上縁からの長さ 子宮底の高さ 分娩直後 約12cm 臍下3押指 産褥1日目 約15cm 臍下1押指 2日目 約13cm 臍下2押指 3日目 約12cm 臍下3押指 4日目 約14cm 臍と恥骨結合上縁との中央上2押指 5日目 約9cm 臍と恥骨結合上縁との中央1押指 6日目 約8cm 臍と恥骨結合上縁との中央 7日目 約7cm 臍と恥骨結合上縁との中央下1押指 10日以後 腹壁上より触知できず 6週目 ほぼ妊娠前に戻る
分娩12時間後(産褥1日目)に臍高となるが、この原因は①骨盤底筋群の緊張回復による子宮の上昇、②子宮内腔への血液貯留などが考えられる。
<悪露>
●悪露とは、産褥記期に子宮腔内や産道から排出される分泌物をさし、その内容は、壊死脱落膜、赤血球、上皮細胞、細菌である。
①赤色悪露:産褥2~3日は血液が主成分となるため赤色を呈し、赤色悪露といわれるが、通常凝血塊が混入することは少ない
②褐色悪露:産褥3~4日以降は新鮮な血液は減少し、白血球が増加する。子宮内に貯留していた血液中の赤血球成分が破裂し血
色素が破壊されて変性し、漿液性浸出液に希釈されて褐色悪露となる
③黄色悪露:産褥約2週間以降はさらに漿液性成分も減少し、白血球が主体の子宮内膜腺からの分泌物のみとなり、透明で淡黄色
の黄色悪露が約2~3週間持続する。
悪露は通常産褥4週頃まで持続し、分娩8週間までには消失する。母体の年齢や経産回数、出征時体重、あるいは授乳の有無が悪露の持続時間を左右することはない。
時間経過 量(g) 分娩時 100~300 多量 ~2時間 70~100 0日 100~200 1日 50~100 2日 30~40 中等量 3~4日 20~30 5~6日 10 少量 7~13日 10 14日~ 少々 総計 300~700
2.乳房の観察点と判断基準
①乳頭・乳房の形:
●乳房の大きさ・形を把握することにより、乳汁分予測や授乳時の児の抱き方を助言するときに役立つ
●乳頭や乳輪のやわらかさや乳頭の形・大きさは児が直接乳頭・乳輪をわえ、舌を使ってそれを口蓋に押し付け乳汁をしごき
だし、口腔内を陰圧に吸いだすことに影響する。
●乳頭は、突出・扁平・陥没(仮性・真性)のどのタイプであるか、また児の舌でとらえることが可能な大きさであるかを、
直接授乳の方法や援助のための情報として収集する。さらに、乳頭・乳輪部の伸びが良いことが児の吸綴のしやさにつなが
るため、のびの目安となるやわらかさ(耳たぶ程度がよい)についても把握する。
●乳頭の亀裂や痛みは直接授乳が産褥にとって苦痛となるため、その有無や程度の確認、観察が重要である。
②乳腺の開通・乳房緊満・乳汁分泌量
●乳房のはりや緊張度合の触診は、乳房内の乳汁の産生や排出の状態の把握するために行う。
●乳房緊満は血液とリンパ乳腺や周囲組織に増加し、乳房がかたく触れ、熱感や圧痛を伴う状態をいい、通常産褥3~4日頃に生じる。これは乳汁をつくりだす作用が急激におきているための反応であり、分泌された乳汁が排出されず、乳管内に乳汁がたまった状態を示す。乳汁うっ帯とは異なる。
●乳房緊満や、乳管の閉塞による乳汁うっ帯、乳腺炎は乳房の痛みを生じるため、痛みの部位、程度、性状を観察する。
●乳汁の分泌については、乳頭・乳輪部を圧迫して乳汁の排出の状態や排出している乳管の開口数、授乳前後の乳房のはりや緊張の度合いを比較することで、分泌状態や乳管の開通状況を推測する。直接授乳を行っている場合には、児の授乳回数や授乳間隔により、児の欲求する量を分泌することが出来ているかを判断することができる。
3.初乳と成乳、母乳栄養の利点
産褥2日頃から初乳の分泌が始まる。初乳はラクトアルブミンやラクトグロブリンのような易消化性のタンパク質を多量に含み、栄養値が高い。産褥5日頃より移行乳となり、7~10日頃から白青色不透明の成乳になる。
●母乳栄養の利点
児が感染症に罹患しにくい 母乳には、免疫グロブリン(特に、IgAクラス)、リゾチーム、補体、ラクトフェリン、Bifidus菌成長因子など、感染防御因子が含まれている。母乳中の分泌型IgAは、酸や、蛋白質分解酵素の影響を受け難く、局所免疫として、細菌やウイルスによる腸管内侵襲から、新生児の腸管を防御する。 新生児は、母乳栄養児の方が、人工栄養児より、感染症に、罹患しにくい。 母乳は、胃腸感染症(サルモネラ菌、コレラ菌)の発症を予防する。ロタウイルス感染も、母乳栄養児の方が、感染率が低い。 母乳には、腸の粘膜を修理する作用があるので、急性胃腸炎の際にも、母乳栄養児では、母乳を続ける。しかし、母乳には、Naは、15mg/100ml(6.5mEq/L)しか含まれていないので、母乳のみでは、下痢による塩分(電解質)喪失を、補えない。急性胃腸炎の際には、味噌汁の上澄みや、ORSなどを、飲ませる。 免疫グロブリンが含まれている 母乳に含まれる免疫グロブリン(抗体)は、分泌型IgA(sIgA)が、最も含有量が多い(60~80%を占める)。次いで、IgM(3~10%)、IgG(1~3%)が多い。 総IgA、sIgA、IgM、IgG濃度は、泌乳期3~5日(分娩3~5日後)が、最も高値を示す。総IgA、sIgA、IgM濃度は、その後、急激に減少する。IgGや、IgGサブクラスの濃度は、初乳よりも、末期乳(分娩300日後)で高値を示す。 母乳中の総免疫グロブリン量は、母乳中の粗蛋白質の6~10%を占めている。母乳中の総免疫グロブリン量は、α-ラクトアルブミン、カゼイン、ラクトフェリンに次いで、多い。 成分の違い 人乳(母乳)に比して、牛乳は、蛋白質、ミネラルが、多い。 人乳に含まれる蛋白質には、アルブミン、カゼインが、ほぼ等量含まれている。牛乳は、カゼインを多く含んでいる。カゼインは、胃酸により、大きな、硬い、凝固(カード)を作り易い。 人乳に含まれる脂質には、必須脂肪酸のリノール酸(LA)が、多く含まれている。人乳に含まれる糖質は、乳糖の形で含まれているが、人乳の方が、牛乳の倍、乳糖を含んでいる。 人乳に含まれるミネラルは、牛乳の3分の1の濃度で、腎臓への負担が少ない。牛乳は、人乳に比して、カルシウムを4倍、リンを6倍、高濃度に含んでいる。牛乳中の高濃度のカルシウムやリンは、鉄と不溶性の複合物を形成し、鉄の吸収を、阻害する。鉄の吸収率は、人乳(母乳)が50%なのに対して、牛乳は3~10%と、低い。離乳期に、母乳や調整粉乳(ミルク)の代わりに、牛乳を与えると、鉄欠乏性貧血のリスクが高まる(注1)。 ナトリウム濃度も、人乳(母乳)より、牛乳の方が、2倍以上、高い。 成分が変化する ●一般成分
母乳中の蛋白質は、初乳に比し、泌乳期の経過と共に、減少する(分娩300日後には、初乳の約55%に、減少する)。母乳中のミネラル(灰分)も、初乳の約70%に、減少する。他方、母乳中の乳糖は、泌乳期の経過と共に、増加し、分娩300日後には、初乳の約120%に、増加する。母乳中の脂質は、分娩20日後頃に、初乳の約120%にまで、増加するが、その後、減少し、分娩300日後には、初乳と、同程度になる。
●水溶性ビタミン含有量水溶性ビタミンのビタミンB1は、初乳から、泌乳期の経過と共に、増加する。ビタミンB2、パントテン酸、ビタミンB12、ビタミンCは、泌乳期の経過と共に、減少する。葉酸、ナイアシンは、初乳に比して、泌乳期の経過で、分娩30日後頃まで増加し、その後、減少するが、分娩300日後でも、初乳より濃度は高い。 脂溶性ビタミンのビタミンEは、同族体が、8種類存在する。そのうち、α-トコフェノールの生理作用が、最も強い。生体組織に含まれるトコフェノールの90%は、α-トコフェノール。 母乳中のビタミンE含有量は、初乳(分娩3~5日後)では、1.22mg。その後、母乳中のビタミンE含有量は、移行乳(分娩6~10日後)では、0.89mgに減少し、成乳(分娩16日以降)では、0.38mgに減少する。 ビタミンEは、多価不飽和脂肪酸が、活性酸素などにより、酸化されるのを防止する、抗酸化物質である。 ビタミンE(mg)/多価不飽和脂肪酸(g)比の適切な値(摂取比)は、0.4と言われている。 母乳のビタミンE(mg)/多価不飽和脂肪酸(g)比は、初乳(分娩3~5日後)では、2.2。その後、母乳のビタミンE(mg)/多価不飽和脂肪酸(g)比は、移行乳(分娩6~10日後)では、1.6に減少し、成乳(分娩16日以降)では、約0.6に減少する。
遊離アミノ酸が含まれている 母乳中には、カゼイン、α-ラクトアルブミンなどの蛋白質の他に、グルタミン酸などの遊離アミノ酸や、尿素など、非蛋白態窒素成分が含まれている。 母乳中の遊離アミノ酸濃度(mg/100ml)は、泌乳期により、変化する。母乳中の遊離アミノ酸濃度は、初乳より、成乳の方が、濃くなる。母乳中のグルタミン酸濃度や、グルタミン濃度は、初乳より、成乳の方が、濃くなる。 母乳中のグルタミン酸や、タウリン(や、ホスホエタノールアミン)は、新生児の消化機能を補...