判例 民事再生法~不正な方法~

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    資料の原本内容

    研究判例:最決平成20年3月13日
        ~再生計画案が不正な方法により成立した場合~
    -イントロダクション-
     本件では、再生債務者側の者が再生計画案の議決権を回収可能性のない債権の買取り・一部譲渡によって取得した結果、多数となって再生計画案が可決された。その行為が民事再生法174条2項各号の不認可事由に該当するか問題となった。
    1 事案
    (1)抗告人は,不動産賃貸業を営む株式会社であり,Aはその代表取締役である。抗告人は,実質的に唯一の資産である建物(以下「本件建物」という。)を相手方Y1,Bほか1社に賃貸していた。
    (2)抗告人は,平成元年2月,Hから4億円を借り入れて本件建物に極度額を4億円とする順位1番の根抵当権を設定し,さらに,Iから4億円を借り入れて本件建物に極度額を4億円とする上記根抵当権と同順位の根抵当権を設定した(以下,これらの根抵当権を「本件各根抵当権」という。)。
     抗告人は,平成4年7月までに,Aが代表取締役を務めるCの合計7億円の借入債務を連帯保証した。
    (3)抗告人は,平成11年7月ころ,株式投資の失敗等により経営が破たんした。
     抗告人は,本件各根抵当権及びその被担保債権を譲り受けた相手方Y2と債務の弁済方法について協議を重ねたが,平成17年12月末以降は交渉が途絶え,相手方Y2による本件各根抵当権の実行が避けられない状況に至った。
    (4)D及びEは,いずれも,Aの子で抗告人の取締役であるが,抗告人に対する債権を有していなかった。
     Fは,Cに対して貸金債権を有しており,抗告人は,Cの債務を連帯保証していたところ,Dは,平成18年1月31日,回収可能性がないことを知りながらFの上記貸金債権を譲り受け,抗告人に対する保証債務履行請求権を取得した。Dは,同年2月10日,上記の貸金債権及び保証債務履行請求権の一部をEに譲渡した。
    (5)抗告人は,同年3月9日,東京地方裁判所に再生手続開始の申立てをし,同月14日,再生手続を開始する決定を受けた。
    (6)抗告人の届出再生債権者は,A,D,E,C,相手方Y2,相手方Y1及びBの7名である。
    (7)抗告人は,同月31日,事業の継続のために本件建物が不可欠であるとして,本件建物につき存する担保権を消滅させることについての許可を申し立て,同年4月14日,再生裁判所の許可を受けた。
    (8)抗告人は,同年9月,再生裁判所に,〔1〕Gから融資を受けて,再生債権額の1%を早期に一括弁済すること,〔2〕再生債権者のうちA,D,E及びCに対しては,個別の同意を得ることを条件として弁済をしないことを骨子とする再生計画案(以下「本件再生計画案」という。)を提出した。
    (9)抗告人は,同年11月30日,Gから約2億円を借り入れ,その一部を前記担保権消滅に係る本件建物の価額に相当する金銭として再生裁判所に納付した。これにより,相手方Y2は,本件各根抵当権を失い,被担保債権の一部の弁済を受けた。抗告人は,Gに対する借入債務等を担保するため,本件建物を譲渡担保に供した。
    (10)同年12月5日に抗告人の届出再生債権者7名全員の出席の下に開かれた債権者集会において,本件再生計画案は,上記届出再生債権者の過半数であり,議決権者の議決権の総額の63.69%を有するA,D,E及びCの4名の同意を得て可決された。
    (11)抗告人が破産した場合には,債権者への配当は見込まれなかったが,別除権 者である相手方Y2にとっては,本件建物の担保権消滅を前提とした本件再生計画案によるよりも,抗告人の破産手続において,本件建物を他の担保物件と合わせて任意売却する方が債権の回収に有利であった。また,本件建物の賃借人であって抗告人に対して保証金返還請求権等を有する相手方Y1及びBにとっても,抗告人につき破産手続が進められた方が,民事再生手続よりも本件建物の賃料債務と抗告人に対する債権とを相殺できる範囲が広く,債権回収には実質的に有利であった。
    ・・・Y1・Y2抗告。
    2 裁判所の判断
    ○ 原々審
    …「決議に付され可決された本件再生計画には、民事再生法174条2項各号に該当する事由はない。」とするのみだった。
    ○ 原審
    「民事再生法174条2項3号及び4号に該当する事由があるので認可すべきものではない」として、本件再建計画を認可しなかった。
    (1)民事再生法2項3号についての判断
    「民事再生法174条2項3号所定の「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。」にいう「不正の方法」とは、詐欺、脅迫、贈収賄及び再生債権者 に対する特別な利益の供与に限られるものではなく、再生計画の決議の結果を左右する法が容認しない不公正な方法をいうものと解するのが相当であり、民事再生手続開始申立て後又は申立て直前の再生債権の一部譲渡により、譲渡前の状態では頭数要件を具備しなかったものを、頭数要件を具備するものとすることも、上記不正の方法に該当する」とした。
    (2)民事再生法174条2項4号についての判断
    「民事再生法174条2項4号「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。」とは、再生計画の内容を総合的に判断して、再生債務者が破産したと仮定した場合に再生債権者が受けうる利益を下回る結果、再生債権者全体の利益に反する場合をいうものである。本件再生手続における再生債権者は、全員で7名であり、相手方関係者4名以外は、別除権者である抗告人Y2と賃借人債権者であるY1及びBであり、相手方関係者は、上記のような相手方破綻の経緯や、D及びEの債権取得の経緯及び相手方関係者の法的地位に照らし、その利害を重視するのは相当ではなく(本件再生計画においても個別の同意を得ることを条件として弁済をしないこととされている。)、結局はその余の3名の債権者の利益に反するか否かに重きを置いて、再生債権者全体の利益に反するか否かを具体的に決するのが相当である。」
    「大多数の債権者にとって再生計画案による本件弁済割合の方が破産の場合に見込まれる配当率を上回るけれども、一部の債権者についての賃借人債権者や抗告人回収機構のような事情があって破産の方が有利であるという事例と本件の場合を同等に考えることは相当でない。」と判示した。
      ⇒4号該当。
    ○ 本決定
    「法174条が,再生計画案が可決された場合においてなお,再生裁判所の認可の決定を要するものとし,再生裁判所は一定の場合に不認可の決定をすることとした趣旨は,再生計画が,再生債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図るという法の目的(法1条)を達成するに適しているかどうかを,再生裁判所に改めて審査させ,その際,後見的な見地から少数債権者の保護を図り,ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとするものであると解される。そうすると,法174条2項3号所定の「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」には,議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当である(法38条2項参照)。」とし、
    「本件再生計画案は,議決権者の過半数の同意が見込まれない状況にあったにもかかわらず,抗告人の取締役であるDから同じく抗告人の取締役であるEへ回収可能性のない債権の一部が譲渡され,抗告人の関係者4名が抗告人に対する債権者となり議決権者の過半数を占めることによって可決されたものであって,本件再生計画の決議は,法172条の3第1項1号の少額債権者保護の趣旨を潜脱し,再生債務者 である抗告人らの信義則に反する行為によって成立するに至った」と、今回の事案に当てはめ、本件再生計画案を認可しなかった。
    * 原審と本決定
     原審と本決定では、民事再生法第174条2項3号に該当し、再生計画案が認可されなかったという点は共通する。では、原審と本決定で異なる部分はどこだろうか?
    <相違点>
    ・民事再生法174条2項3号に関する判断
     →原審では、「不正な方法」を「(詐欺、脅迫、贈収賄及び再生債権者に対する特別な利益の供与に限られるものではなく、)再生計画の決議の結果を左右する法が容認しない不公正な方法」としたのに対し、本決定では、信義則に反する行為も含まれるとして根拠条文?として民事再生法38条2項を参照させている。
    ⇒ ・38条2項を参照させていることから、本決定は具体的な根拠条文を意識?
        →38条2項は「公平誠実義務」(再生債務者の義務)の規定 ☚ なぜこの条文?
    ・また、文言の違いが射程に影響する?
    ・民事再生法174条2項4号に関する判断の有無
     →原審では、(3号に加え)民事再生法174条2項4号の「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」にも該当するとして、本件計画案が認可されなかった。それに対し、本決定では、民事再生法174条2項3号についての判断はなされたが、民事再生法174条2項4号についての判断はなされていない。
     ⇒ 民事再生法174条2項3号により認可されなかったから、もはや判断する必要はない?
    3 意義
    … 本件の位置づけとしては、
    ①民事再生法第174条2項3号に関する初めての裁判例であること
    ②同号のいう「不正な方法」該当性に関する基準が打ち立てられたこと
    が挙げられる。
    ☞ 以下、まず、再生計画等に関する知識をまとめる。次に、4で「不正な方法」に関する学説(裁判例はないので・・・。)を...

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