政教分離に関する判例の論評~津地鎮祭判決を中心に据えて~
1.はじめに
政教分離原則とは、政治権力が宗教的に中立の立場でなければならないとする原則をい
う。憲法の条文に、「政教分離」という言葉自体は存在しないが、憲法 20 条 1 項後段、同 20
条3項、同89条がそれを規定している。ところが、実際には国家と宗教との完全分離は容易
ではない(例えば、私学助成のための公金支出において、助成を受ける学校の中には宗教
団体が経営に携わっている場合もある)。そこで、政教分離原則の意義および国家と宗教の
かかわり合いの程度が問題となる。また、具体的事案の解決を図るに際しては、政教分離原
則に反するか否かの判断基準が問題となる。以下、これらの点についての判例の立場を紹
介し、論評することとする。
2.津地鎮祭判決から
まず、政教分離の意義および国家と宗教の分離の程度について、津地鎮祭訴訟(民集 31
巻4号533頁)において最高裁は、①「政教分離規定は、信教の自由そのものを直接保障す
るものではなく、国及びその機関が行うことのできない行為の範囲を定めて国家と宗教との
分離を制度として保障
政教分離に関する判例の論評~津地鎮祭判決を中心に据えて~
1.はじめに
政教分離原則とは、政治権力が宗教的に中立の立場でなければならないとする原則をい
う。憲法の条文に、「政教分離」という言葉自体は存在しないが、憲法 20 条 1 項後段、同 20
条 3 項、同 89 条がそれを規定している。ところが、実際には国家と宗教との完全分離は容易
ではない(例えば、私学助成のための公金支出において、助成を受ける学校の中には宗教
団体が経営に携わっている場合もある)。そこで、政教分離原則の意義および国家と宗教の
かかわり合いの程度が問題となる。また、具体的事案の解決を図るに際しては、政教分離原
則に反するか否かの判断基準が問題となる。以下、これらの点についての判例の立場を紹
介し、論評することとする。
2.津地鎮祭判決から
まず、政教分離の意義および国家と宗教の分離の程度について、津地鎮祭訴訟(民集 31
巻 4 号 533 頁)において最高裁は、①「政教分離規定は、信教の自由そのものを直接保障す
るものではなく、国及びその機関が行うことのできない行為の範囲を定めて国家と宗教との
分離を制...