公的扶助1

閲覧数1,458
ダウンロード数62
履歴確認

    • ページ数 : 9ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    資料の原本内容

    「現代の貧困の特徴と構造について整理し、
    その解決のために何が必要か考えよ。」
    はじめに
    現代の国民の中にある貧困は、所得や生活水準だけでなく、社会的な性格を持っている。それは公的に保障されている水準以下の生活でありながら、社会的に排除され、社会に潜在している「見えない貧困」が「見える貧困」へと変化してきている。現代の貧困にはどのような特徴があり、「見えない貧困」から「見える貧困」に転化された社会の仕組みについて考察していく。
    戦後の生活様式の変化と生活構造への影響
    戦後の生活様式の変化
     私たちの生活様式は、戦後急速に変化してきた。1955年から73年までの高度経済成長期を第1期、73年から現代の低成長期を第2期に分けてみると、戦後の高度経済成長期を迎えたわが国は、工業化、都市化が急激に進み、都市部への人口流出により都市の過密化、農山村部での過疎化、高齢化が加速し、都市においては、若い夫婦と子どもで構成される核家族化が増え、地域コミュニティーの崩壊、地縁、血縁の希薄化による伝統的相互扶助機能の低下が起こり、従来家事の多くを担っていた女性の社会進出、共働き世帯の増加で家庭内の育児機能、家事機能が低下した。
     第1期の大きな変化として、生活の「社会化」があげられる。水道、ガス、電気、通信、教育、医療などの生活基盤供給が社会制度を通し、国や地方公共団体による供給により行われ、地域の相互扶助が弱まった中でも生活維持できるよう、税金や社会保険料を財源とした社会保障や社会福祉諸制度の形成、そして、核家族化、共働き世帯の増加による家庭内労働軽減のため、家事や衣食、育児、介護等の外部化・商品化が進み、耐久消費財を中心に家庭内の消費財化・サービスの多くが提供されるようになる。
     第2期の「低成長期」に入ると、生活基盤における公的責任の後退、供給が「民営化」され、民間資本による「応益負担原則」が強まり、社会保障や社会福祉諸制度においても、公的責任としての生活保障である「公助」の考えから、健康保険、国民年金、厚生年金など社会保険に代表される「共助」が強調され、保険料や一部負担料の増額、給付範囲の縮小と穴埋めとしての民間保険の導入など「自助」を強いられるようになる。国庫負担削減により、国民負担の増額、所得に応じた「応能負担原則」が後退し「応益負担原則」が強要された。
     第2期では生活の「社会化」が「商品的社会化」に変化した点に特徴があり、「応益負担原則」は所得の再分配機能を低下させ、生活基盤を得るための負担が低所得層で大きくなり、貧困は資本主義社会によりつくられた。
    生活構造への影響
     こうした戦後の生活様式の変化は、生活構造にも大きく影響をもたらし、賃金に対する生活基盤や社会保障・社会福祉の確保のため支出した割合を示す「賃金依存度」は、第1期では低水準に抑えられ、耐久消費材の普及、教養娯楽費、交際費等が拡大するが、第2期では、生活基盤や社会保障・社会福祉の確保が市場原理導入により、生活基盤や社会保障・社会福祉の確保のための支出の占める割合が上昇し、教養娯楽費、交際費など自由に使えるお金が減り、節約せざるを得なくなり、その結果日々の生活にゆとりがなくなり、この「賃金依存度」の上昇は、病気や怪我など生活上の事故に直面すれば、たちまち生活が成り立たなくなるという、生活構造のもろさを表しており、低所得層においては、「賃金依存度」の上昇による生活構造のもろさに加え、不安定雇用等のため収入の変動が大きくなり、生活構造の崩壊の危険性を高めている。
    社会制度から排除されていく人々
     生活基盤や社会保障・社会福祉の確保のための費用が支出できなくなると、「見えない貧困」が「見える貧困」に転化するのが、現代の貧困の特徴である。健康保険料や国民年金などの支払いが滞ることで、社会保障・社会福祉サービスが受けられず、本来なら国民誰もが等しく受ける権利を有する社会保障・社会福祉サービス等の社会制度から低所得層が排除されるという現象が起こる。このため、ますます貧困が重度化、長期化し、健康で文化的な生活から遠ざかり社会的に排除されてしまう。
    排除には三つの要素が含まれ、1つは、経済的排除で生産活動と消費活動からの排除、2つめは、政治的排除で政治活動に必要な資源、情報、機会からの排除、3つめに社会的排除があり、これは主に地域活動からの排除を意味している。
    低所得層の就労と実態
     就労による経済的自立を前提にした資本主義社会において、失業や低賃金という事態は貧困に直結しやすい。正社員だが企業の利益再分配システムが機能せず、ワーキングプアに陥る、または親と同居し、親の資産を使いはたし、現在は貧困層ではないが将来的に貧困層へと転落する可能性があるパラサイトシングルの増加、雇用の流動化で生じた非正規雇用労働者の存在、この階層は若年単身世帯、高齢者世帯、ひとり親世帯に特化しており、その人物が家計の主体を成している場合、最低生活費以下で生活し、殆どがワーキングプアの状態にあると言われている。ほかに、自営業者や農家も大型店の進出などで収益が激減し、ワーキングプアに陥っている場合もある。貧困救済である公的扶助制度が、失業や低賃金による低所得=不安定就業階層に対し機能しておらず、ワーキングプアが生活保護の対象からは排除され、資本の蓄積とともに、非正規雇用化が進み低所得層を生み出す一方、社会保障制度の不備から低所得層が滞留し、固定化されて低所得層だけでなく国民一般階層を巻き込み、生活崩壊の構造を作り出し潜在的な「見えない貧困」が増えているのである。
    解決に必要なこととは何か
     最低生活を保障するセーフティネットの拡充は不可欠であるが、現状は最低生活を保障する制度は貧弱である。欧米では、その国の平均的所得の60%以下を貧困ラインと設定しているが、日本には明確な貧困基準が設定されていない。わが国は生活保護制度があるも、働ける現役層への適用が難しく、実際にはリストラによる離職、転職を繰り返し生活苦に陥るケースも少なくないが、働けることを理由に生活保護が適用されない。最大の課題は、生活保護世帯外側ギリギリの層への支援の欠如の解消である。
     6、おわりに
    社会的ネットワークから外れてしまう社会的排除者、「見えない貧困」層を支援するための排除防止を目指さなければならない。現在の貧困は資本主義社会の矛盾により起こったものである。貧困は本人に原因があるように捉えがちであるが、貧困が生じる社会的構造を早急に改善しなければ、貧困は増える一方である。全ての人が人間としての尊厳を維持しながら暮らしていけるよう雇用と社会保障に対し、一人ひとりが自助努力をするのを助けるという従来型の就労支援には限界があり、福祉事務所やハローワーク等の連携されない体制でなく、一体的に生活保護と職業紹介など個々人に合わせた適切な支援を可能とさせる包括的対策を講じなければならないと考える。またそのために、生活保護の様な恩恵としての貧困対策ではなく、権利としての貧困対策への転換が必要ではないかと考える。
    参考著書
    『新公的扶助論』
    2008年8月 第三刷 阿部 實編著
    川島書店
    『現代の貧困』
    2007年11月 第七刷 岩田 正美著
    ちくま新書
    (1)

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。